408.橋が二つ落ちたですって?
翌日の報告書は、時系列を淡々と記した後で「被害」を大きく報じていた。リッシリアの中央は川が流れている。大きな橋が全部で三つ架かっているんだけど、そのうち二つが落ちた。
最初の被害記述で肩を落とす。他の都市へ繋がる街道の橋は、大急ぎで復旧しないと困るわね。エレオノールはすでに申請書と許可証と同時作成していた。予算も計上しないといけないわ。
リュシアンが大暴れした報告は、本人からも入っていた。危険だから逃げたクリスティーネは、遠くからの客観的な報告ね。建物が崩れたり橋が落ちた順番がよく分かるわ。
夫のローヴァイン伯爵は、実務的な数字を送ってきた。崩れた橋の修復の見積もりや、壊れた建物の分類よ。これで公共工事の費用の概算が出るわ。お礼の言葉を送り、隣のテオドールを仰ぎ見た。
「誰に任せようかしら」
「責任を取って、壊した当人に任せてはいかがかと」
「それも悪くないわね」
壊してばかりのリュシアンだけれど、意外にも建築に造詣が深い。というより、興味半分で古代から現代までの建築方法を調べていたのよね。主犯が逃げ込んだ教会は、数世紀前の建造物だった。建て直すなら、古い建築方式がいいわ。
民間の建物で、弁償が必要なのはいくつかの商店ね。こちらは最新の建築方法で構わない。ほぼ地震はない世界だけれど、安全性は高い方がいいと思うの。主犯である侯爵の宝石店は更地にして競売にかけるとして。
ざっと計算した内容に眉を寄せた。思ったよりお金がかかるわね。
「クリスティーネ様より、予算の補填に関するご連絡が入りました」
シントラーの侯爵は、宝石店を隠れ蓑にしていた。その店舗に並んだ宝石は、崩れた建物の下敷きになっている。それを掘り起こす案を出してきたのだ。工夫を雇えば横領が発生するので、リュシアンの精霊魔法に頼る方法が提案された。
「この案を採用すると連絡して」
全部を賄うのは無理だけれど、損失が六割くらいに減ったわ。シントラーの元国王へ娘を届けたところ、お礼に街の復興に手を貸すと言い出したみたい。その情報も追加で受け取り、少し悩んで返信した。
お金より人手を用意して欲しい、と。彼らにお金を出してもいいと許可したら、全財産を差し出しかねないわ。そういうお人好しだからこそ、生かして残したんだもの。今後利用されないためにも、彼らの体面を保つ財産は必要だった。
「カールお兄様を派遣しましょう」
王族の心構えと、利用されないための知恵を授ける。その上で……窓の外から聞こえる悲鳴を軽減できる策よ。一石三鳥ね。にっこり笑う私に、お兄様の妻であるエルフリーデはあっさり賛同した。
「いいお考えです。力が有り余っているようですから」
元アリッサム王国の地を治めるだけでは、物足りないのでしょう? お兄様にぴったりの仕事よ。ついでにシントラーの叛逆に参加した貴族を、きっちり懲らしめてもらいましょうか。
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