407.お茶をしながら叛逆を制する
次々と入ってくる報告を精査するだけでいいなんて、有能な部下を持った特権ね。いつもの執務室で、テラスの窓を開け払ってお茶を楽しむ。今日のお茶は、リュシアンの領地に住むエルフの献上品よ。前世の記憶で近い香りは、アールグレイかしら。
気に入ったので、今度は購入したいと連絡してもらった。献上すると言われたけれど、対価は払うわ。ただでさえ他国で苦労しながら生活しているのに、十年も前の恩を返すと言われても、ね。こちらが搾取してるみたいじゃない?
長く気持ちよく付き合うには、必要な費用は惜しまないの。それにお金を払ったからこそ、不良があれば遠慮なく文句が言えるでしょう? お金を払うお客だからこそ、友人にお茶を勧めることも出来るわ。
「あらあら、もう接触したの」
クリスティーネの動きが早いわ。リュシアンの連絡は精霊に任せ、新しく開発した獣人経由の通信を彼女に割り当てた。獣人達は聞き取った音をそのまま送信するだけ。情報が途中で漏れる可能性は低いのが利点ね。
やはり聞き違いや送信違いが発生するようで、エレオノールは推測を交えて報告書を作成した。その内容によれば、クリスティーネと夫のローヴァイン伯爵は、二週間前からリッシリアに滞在している。どこかで叛逆の噂を聞いたみたいね。
あの子の情報網って、王家より実力が上じゃないかしら。早過ぎるわ。噂の段階で動くなんて、道理で見かけないと思ったのよ。最近は大きな事件や事故がなかったから、会議もしなかったし。気づくのが遅れてしまった。
主犯である侯爵が、妻の実家の名前を使って騒ぎを起こそうとしている。推理なのか、予測なのか。クリスティーネは妻である元王女に近づいた。
宝石店を営む侯爵の店に通い、調査を行ったのね。そこで自分が出向くあたり、行動的な彼女らしい。夫のローヴァイン伯爵も止めずに、一緒になって潜入するなんて。相変わらずの夫婦だわ。
報告書を読み終えたところに追加が差し出された。元王女を連れ出した? なるほど……彼女は実家を戦いに巻き込みたくなかった。だからクリスティーネの「助けてあげる」に縋りついたのね。人質救出の一報は、すぐにリュシアンに到達する。
あとは自由に暴れるだけ。人質とか他人の名を騙る犯罪は、大嫌いなのよ……あの子。ハイエルフは見た目の成長がないけれど、精神的にも外見相応に幼い。だから多少の経験を積んでも、中身の感情は子どもなの。
好きなだけ暴れていいけれど、犯人以外に危害を加えないこと。建物は出来るだけ壊さないこと。その二点を伝えて、好きにさせた。
ここでお茶を片付け、私も手元の申告書類を決裁していく。彼らから次の報告が入るのは、明日になるでしょう。それまでに別の仕事を片付けておかないとマズイわ。どうせ後片付けはこちらに投げるつもりだもの。
手を空けておかないとね。エルフリーデは護衛に戻り、開いたままの窓の外から鍛錬の声が聞こえる。時々悲鳴が混じるのは、お兄様が暴走しているのかも。
「お母様、私もお手伝いします!」
「僕も!」
「レーも」
可愛い子ども達が飛び込んで、私は口元を緩める。危険なレターナイフを引き出しへ片付け、インク瓶に蓋をした。慣れっこのエレオノールが、彼女らを専用の机へ誘導する。それぞれに座ったところで、本や計算用紙が渡された。
長女ヴィンフリーゼには計算を、長男フリードリヒは分厚い外国語の辞書。それぞれに作業をお願いした。パトリツィアの前に紙を置いて、作業風景の絵を頼むの。これで大人しくしてくれるといいのだけど。
テオドール考案の子ども対策セットは大いに役立ち、夕食で褒められた三人は嬉しそうだった。
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