399.若き女王陛下の御代に幸いあれ
王冠が女王陛下から私へ授けられる。この時頭を下げて受け取ってはいけないの。顔を上げたまま、俯かずに王冠が載せられるのを待った。
一歩下がる女王陛下が、玉座に立て掛けた王杖を手に取る。両手を捧げて受け取り、私は右手にしっかりと握り直した。立ち上がり振り向く。と同時に、前女王となられたお母様が右に避けた。
「新たなる主君、ブリュンヒルト・ローゼンミュラー女王陛下に敬礼!」
まず騎士が忠誠を示すために敬礼を行う。続いて貴族達よ。
「輝かしき未来へ羽ばたく、新女王ローゼンミュラー陛下に忠誠を捧げます」
「「我らの忠誠を」」
貴族の頭が次々と下げられる。これは地位で下げる順番が決まっているから、騎士の敬礼のように揃っていなかった。
「我らは新旧交代を申し入れます。若き女王陛下の御代に幸いあれ」
母の側近達が二歩下がり、同時に私の側近が前に進み出る。事前に練習したのかと思うほど綺麗な交代劇だった。並んだ側近から名前と地位、忠誠を誓う文言が捧げられる。
玉座の前で踵を返したため、左右が逆転した私の右側で、ヴィンフリーゼが目を輝かせていた。状況を理解しているというより、皆の揃った動きに感動しているようね。退屈していなくて良かったわ。
フリードリヒは乳母に抱かれて、ヴィンフリーゼより後ろに控えていた。子ども達の出番ももうすぐよ。
「シュトゥッケンシュミットの名において、ブリュンヒルト・ローゼンミュラーは王位継承を宣言する」
わっと沸き立つ歓声に、貴族が拍手を重ねた。踵を鳴らして剣を抜き、打ち鳴らして戻す騎士が姿勢を正す。これで私の王位継承は終わり。続いて、可愛い子ども達の番よ。
「ヴィンフリーゼ・リリエンタール、前へ」
事前に練習した通り、ヴィンフリーゼは乳母の手を離して私の前に立った。まだ二歳の幼子、状況はほとんど理解していないわね。お祭りかお祝いだと思ったようで、表情は明るかった。
「我が後継者ヴィンフリーゼを王太女に命じる」
「はいっ!」
私の合図で、大きな声の返事が上がる。扇をひらひらした合図に気づいてくれて良かった。駆け寄るのは予定外だけれど、抱き上げて臣下にお披露目も済ませましょう。すぐにテオドールが歩み寄り、代わりに娘を抱っこした。
フリードリヒのお披露目は来年だから、乳母に抱かれた姿を見せるだけ。紹介もしない。ただ王太女の弟がいることを勝手に察して帰って頂戴。
「新女王陛下万歳! シュトルンツに繁栄あれ!!」
口々に同じ祝いを述べる貴族に、来賓が混じっている。属国や周辺国の王侯貴族が並ぶ中、視線を感じて左側へ顔を向けた。黒髪の青年はにやりと笑い、軽く会釈して消える。跡形もなく姿を消した魔王も、祝ってくれる気はあるみたいね。
彼がいた場所に残る薔薇を拾い上げ、リュシアンが地団駄踏んで悔しがった。聖杯の力で精霊を誤魔化したようで、気付くのが遅れたと拳を握る。ちらりと確認した隣で、涼しげな顔をしている夫も内心は荒れてるんじゃないかしら。
招待状を受け取ったなら、受付して表から祝いに来ればいいのに。天邪鬼なのか、リュシアンを刺激しないためか。どちらにしろ、迷惑な喧嘩だわ。ふふふ、漏れる笑みを扇で上手に隠した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます