395.お父様の思いがけない贈り物

 数日経ってもペースが戻らない。一人目より二人目の方が、出産後が辛いわ。この辺も経験しないと分からなかった。すべて治世に生かさなければ、もったいない。もし三人目を産む母親がいれば、国で補助したらどうかしら。


 前世では少子化が問題になったけれど、女性の社会進出を促進すれば同じ道を歩むわ。事前に手を打って、子を産んで専業主婦になりたい人と働きたい人、それぞれを支援する策を練りましょう。


 これから起きる課題がすでに見えている。ならば先手を打って潰せるはずよ。これで同じ少子化に悩む国を作るなら、私が無能だった証明になるでしょう。


 いくつか懸念する点を書き出し、エレオノールに渡した。読み終えた彼女からも複数の指摘や懸念が出る。三人寄れば文珠の知恵、ならばもっと集めて欠点を潰すのが早いわ。側近達に集まるよう会議の連絡をした。


 このところ忙しかったから中断していたけれど、お母様との朝食会を復活させてもいいわね。代替わりしても知恵を貸していただきたいし、私も継承していけば……将来的に合議制のようなシステムが構築できる。


 暴君を生まないためのストッパーとして機能させたいわね。これも提案しておきましょう。メモに付け加えた。


「失礼致します」


 テオドールが両手を塞いで現れる。滅多にない光景に頬が緩んだ。緊急時の対処が遅れるって嫌がるくせに、ちゃんと我が子を抱いて来るんだもの。


 右手をヴィンフリーゼと繋ぎ、左腕にフリードリヒを抱く。後ろにそれぞれの乳母が同行していた。


「まま!」


「おいで、リゼ」


 テオドールの手を離し、ヴィンフリーゼは駆けてくる。転ばないか心配になる程よたよた揺れながら、それでも無事辿り着いた。しゃがんで広げた手に飛び込むヴィンフリーゼは、かなり重くなっている。


 抱き上げるのは無理かしら。フリードリヒを乳母に一度預け、彼は床に分厚い絨毯を敷いた。その上に胡座をかいて座り、フリードリヒを受け取る。靴を脱いだ私も絨毯に座り、真似したヴィンフリーゼが泣きだした。


 靴が上手に脱げないらしい。ストラップ付きの靴は可愛いけれど、脱げて躓かないよう工夫されている。膝の上に彼女を座らせ、一つずつ脱がせた。恐縮する乳母達を部屋の応接ソファーで待たせる。お転婆に走り回るかと思ったけれど、ヴィンフリーゼは私にべったりだった。


 動物でも子どもでも同じ。懐かれると特に可愛いわ。お腹を痛めて産んだ我が子だから、たとえ懐かなくても愛おしいけれど。膝に頭を載せて、時々こちらの様子を窺う。微笑んで頷けば、にこにことご機嫌になった。


「あした、あえる?」


 帰る時間になって不安そうなヴィンフリーゼの金髪を撫で、大きく頷いた。


「もちろんよ、明日も待っているわ」


 笑顔で乳母の手を取り帰るヴィンフリーゼは、何度も振り返って手を振った。何があったのかしら。以前はあんなに懐いてなかったわよね。首を傾げた私に、思わぬ報告が入った。


 お父様が、私はヴィンフリーゼを大好き過ぎて具合が悪いと教えたみたい。自分を好きだと言われて、気分の悪い人間はいない。忙しさに距離が出来ていたことを、お父様が懸念したんですって。


 お父様らしい気遣いだわ。後でお礼を言わなくては……だって、本当に嬉しかったんだもの。

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