356.お兄様、ご自分の罪を仰って下さい
今回の事件をお母様に報告する必要はないわ。すでにご存知のはずだもの。呼び出しがないなら、私が許可した罰に反対しない意思表示よ。
ただ、側近達とは情報共有しておきましょう。明日からバッハシュタイン公爵夫人と嫡男が滞在する。何も知らずに接することは、大きな失態を招くわ。前世で流行った「報告、連絡、相談」は、この世界でも積極的に取り入れるつもりだった。
「皆を集めて頂戴」
「承知いたしました」
テオドールは優雅に一礼して出ていく。戻ってきた執務室で、私はソファーに横たわった。なんだか疲れたわ。兄はソファーの前の床に正座している。
「正座なんてどこで覚えたのよ」
「反省する時の座り方だと、エリーに習った」
エルフリーデのことね? 反省する意思を姿勢で示せと言ったなら、お兄様はエルフリーデ相手にも何か失敗したみたい。そこは追求しないであげるわ。
ぐったりとソファーに背を沈め、クッションを枕に寝転がる。心配そうにエレオノールが近づいた。
「散歩で何があったのですか」
「それを説明するわ、全員集まってからでいいかしら」
「二度手間になりますから当然です」
頷くエレオノールは、手際よく果実水を用意した。まだ悪阻の時期ではないけれど、酸味のある柑橘を搾った水がコップに注がれる。銀は酸に反応するので、スプーンは使わなかった。代わりにエレオノールがコップに口をつける。
一口含んで、わかりやすいよう喉を見せながら飲み込んだ。ごくりと喉が動く。それから口を開いて確認させ、コップを差し出した。
「ありがとう」
身を起こして、胸元から取り出したハンカチで縁を拭う。拭わずコップを差し出したのは、細工していないと示すため。エレオノールらしい気配りだわ。水を一口、爽やかな香りが鼻に抜ける。
「美味しい」
ひんやりしているのは何故かしら。説明を求めたところ、意外な方法を教えてもらった。
水を入れたピッチャーを大きめの壺で冷やすらしい。水を入れた壺は素焼きで、通り抜けた水が蒸発する。壺の中は冷えるので、中間にお盆を固定してピッチャーを冷やすらしい。
前世で気化熱の勉強をした時、聞いたような気がするわ。この壺はエレオノールが、ミモザ国で愛用していた物だった。私物を運び込むときに持ち込んだみたいね。井戸の水を素焼きの瓶に入れたら冷えることに気づいた先祖が応用したとか。そのご先祖様、もしかして異世界人? 聞いても分からないわね。
魔法陣や魔力が要らないから、今後このシュトルンツでも普及させようかしら。ミモザ国で作ってもらい、輸入したらいいわ。その手筈を指示して、私は再び横になった。
威厳は欠片もないけれど仕方ない。お兄様も似たようなものだし、足が痺れてもぞもぞしてるから早々に片付けましょう。いくら側近相手でも、王子の情けない姿を披露する理由はないわ。
「お兄様、何がいけなかったのか。ご自分の口で仰って下さい。正解なら、軽い罰で許して差し上げますわ」
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