355.罪と罰のバランスが難しいのよ
「納得してもらえたようね。ならば、次は罪を問いましょうか」
カールお兄様は俯いた。この事態で、私がバッハシュタイン公爵の罪を問わない選択肢はない。次期女王の身を害する手段を用い、未来の王族の命を危険に晒した。実際に飲むと思わなくても、毒を目の前に並べたの。
そもそも、兄を使って私を呼び出した行為も問題だわ。危害を加える気がなかったと言うなら、お兄様を通じて面会を申し出ればよかったの。たとえ王宮内でも、王太女を騙し連れ出したのは事実よ。
いくらバッハシュタイン家でも、何もせず帰すことは出来ないわ。公爵は顔色を変える事なく、白湯の入ったカップに口をつけた。
「言い訳はしないの? 命乞いとか」
ふふっと笑いながら促す。彼は優雅な所作でカップを置いた。ソーサーの上のカップの縁を指先でなぞり、公爵は首を傾ける。
「はて。同じ場面で王太女殿下は命乞いをなさいますか?」
「あり得ないわね」
私なら、覚悟の上で動いた結果に責任を取る。己の命で失敗を贖うなら、仕方ないわ。
ましてや彼は跡取りが出来たばかり。自分がいなくなっても、我が子が跡を継ぐ。シュトゥッケンシュミットは、王家の番人であるバッハシュタイン公爵家を潰せない。
確信を持って動いたのなら、相当な狸よね。
「ご存分に」
殺されても文句はない。彼はそう匂わせた。私はゆっくりと指を組み、そこに顎を乗せて公爵を眺める。
「ヒルト、その……私にも罪はあると思うのだが」
「当然です。お兄様は黙っていてください。これで三度目ですわ」
これ以上は家族相手でも許せない。明確に声に含めて示す。すまない、と呟いたお兄様は黙った。肩を落とす姿は気の毒そうだけれど、あなたも共犯ですからね。後できっちりお話ししましょう。
「私が手を下すまでもなさそう。一応、手加減するように伝えるわね」
付いてきてはダメとあれほど言ったのに。彼は罰を受けることが褒美だもの。罰なんて怖くないのよ。くすくすと笑う私が手招きすると、さっと姿を現した。
バッハシュタイン公爵を無視し、お兄様をちらりと一瞥し、微笑みを浮かべて私の隣に立つ。
「報告が入りましたので、馳せ参じました」
「後できっちり叱ってあげる。公爵への罰は重くない程度、でも軽んじられないように」
微妙な匙加減を求める私に、テオドールは穏やかな口調で同意した。
「ブリュンヒルト殿下の仰せとあれば、何であれ叶えます」
「……それで、私への罰は何になるのかな?」
人をおちょくるような口調は癖なのかしら。これでは外交官としては使えない。わざとでしょうね、遠回しに距離を置きたいと示された気がするの。
「テオドール」
「はい。公爵閣下にとって最も価値のあるお二方を、王宮でお預かりしてはいかがでしょうか」
「いいわね。期間は相談して決めましょう」
いや、それは……他の罰にしてくれないか。慌てて騒ぐ公爵の姿に溜飲が下がる。人の命を狙ったフリをしたんだもの。このくらいは我慢してもらいたいわ。少なくとも、危害を加える気はなくてよ?
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