271.結婚式前のエステよね、これ
思った以上に完璧だった。気になって指摘する箇所はないので、そのまま許可を出す。国内貴族を中心に、近隣から参加できる王族が駆けつけるらしい。クリスティーネが交渉した結果ね。
ルピナス帝国は、リッター公爵令息にして次期国王となるエトムントと王女が参加する。アンジェラ王女の父、国王クリストフはお披露目の際に顔を出すと参加表明があった。
ミモザ国はまだ国内が混沌としているようだけど、公爵家がひとつ代理で参加すると連絡が入る。アリッサム王国は断ったわ。騒動を起こされる予感しかないもの。おそらく国境を越えた途端に、盗賊に変化するのでは? なんてツヴァンツィガー侯爵に嫌味を言われていたわ。
アルストロメリア聖国としては、リュシアンに接触を図りたいらしい。すぐに参加する旨の返信が届いた。リュシアンが国を出て、すぐに精霊が消えたから。いろいろと考えているみたい。事前に伯爵の地位でも与えておきましょう。
属国は都合の付く王族が参加する国もあれば、お披露目に合わせて予定を組む国もある。どちらでも不都合はなかった。そもそも、結婚式を急いでいるのは、シュトルンツの都合だもの。合わせきれないのは当然よね。
「では、ブリュンヒルト殿下。お肌を磨かせていただきます」
政務疲れを落とそうとマッサージを頼んだのに、なぜか熟練の侍女ではなく執事が待っていた。いえ、婚約者……もう夫でいいわね。
「何をしているのよ、テオドール」
「結婚式を控えたお嬢様の肌を磨き、政務に固まった王太女殿下のお体をほぐす為に控えております。さあ、こちらをどうぞ」
すでに監禁された寝室のベッドで、隅から隅まで見られたけど。不思議と恥ずかしいのよね。見られたから恥ずかしいのかしら。
余計なことを考えて現実逃避する間に、テオドールは手際良くドレスを脱がせた。あっという間に綿の長衣に着替えさせられる。寝着に近い薄手でロングの形だった。
「さあ、ご用意させていただきました」
ハマムのように湯気が充満したお風呂場へ誘導され、横たわるよう指示される。素直に横になれば、背中や腰に手が置かれた。びくりと肩が揺れたものの……すぐに気持ちよさに目を閉じる。
シュトルンツの侍女のマッサージは、ルピナス帝国のハマムより格段に上だった。それでもやはり女性の手は小さく、力が弱い。男性であるテオドールの大きな手で、ゆっくり揉みしだかれると溶けてしまいそう。
肩や腰の一部は驚くほど硬く、テオドールは丁寧に香油を塗してほぐした。気づいたら眠っていたようね。
「テオ?」
「はい。ここにおります」
穏やかな声で返答があり、足の指がゆっくり折り畳まれる。また伸ばし、何度も揉んで柔らかくされた。頬に触れればすでにマッサージが終わったのか、ぷるんとした肌の手触りが嬉しい。全身丁寧に解され、ふと思い浮かべた。前世で、結婚式前にエステに通うのって、これと同じよね。
香油はリュシアンの手による作品だろう。とても香りがいい。漂うラベンダーの香りに癒されながら、私はゆっくりと深呼吸した。
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