265.早まった結婚式の準備開始

 執務室へ戻ってすぐ、側近達を招集した。全員集まったのを見て、溜め息を吐く。


「エルフリーデ、あなたは呼んでいないわ」


「仲間外れはいけませんわ、ブリュンヒルト様。私は王太女殿下の専属護衛です」


 引き下がらないと示す彼女に、苦笑いして頷いた。お兄様との婚約式が近いから、忙しいと思って配慮したのだけど。余計なお世話だったみたい。


「結婚式が早まったって?」


 精霊から情報を得たリュシアンが、口火を切った。


「ええ、そうよ。結婚式先に行います」


 エレオノールはいち早く「なるほど」と頷いた。クリスティーネも同様だ。


「調整しなくて済みそう」


 ふふっと笑う彼女は、黒髪をばさりとかき上げた。きょとんとしたのはリュシアンだ。彼はハイエルフで、結婚式やお披露目は経験がなかった。簡単に説明され、大きく何度も頷く。


「面倒くさいな、人ってのは毎回そんなことしてるのか」


「ハイエルフはないのよね」


「数十年単位で恋人を変える奴も多いし、一生一人と連れ添う場合もあるが……友人を呼んで付き合う宣言して終わりだ」


 ある意味、お披露目ってこれでいいのよ。前世もそうだけど、利害関係で繋がる取引先や義理で知り合いをかき集めるのは見苦しいわ。本当に祝って欲しい人に声をかけて、都合がつけば一緒に食事をするくらいで用は足りるもの。


「羨ましいわ」


「まあ、お姫様がそれじゃマズいってのは、俺でも分かるよ」


 からりと笑い飛ばされた。人の世界に入って数年で、彼が吸収した知識は膨大だ。人の習慣や考え方、振る舞いから礼儀作法。図書室の大量の本も貪るように消化している。いずれは知略に長けた参謀になりそうね。


「ドレスの手配が間に合わないのですが」


「安心して。お母様が作らせていたわ」


 エレオノールに微笑んで返し、驚いた顔に……私も同じだったのかしらと肩を竦める。今度は皆のドレスの相談が始まった。色被りを防いでバラバラにするか。いっそ色を統一してしまうか。盛り上がりそうな話題だけど、ここは主役の私が決めてもいいわよね。


「同じ色にしましょうよ」


「ええ、いいですよ。何色がいいかしら」


「ウエディングドレスは白ですよね。だったら淡い色の方が」


「逆に濃い色もありだぞ」


 なぜかリュシアンが意見を出し始めた。どうやら、全員で色を揃える中でピンクに決まったら、俺も着るのか? と心配になったらしい。テオドールは主役を引き立てる準主役だから、もちろん私と合わせるわけだし。一人残る男性側近としては、不安が膨らむわ。


「色は任せるけど、リュシアンは好きな色にしたらいいわ。正確に表現すると、あなたは側近じゃなくて客人だもの」


「それはそれで、気に入らない」


 仲間外れにされる気分だと不貞腐れる。ハイエルフは年齢を重ねても中身が幼いから、こういうところが面倒なのよね。まあ、年下の男の子みたいで可愛いけどね。

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