263.話が通じないのはテオドールだけじゃない
執務はエレオノールやクリスティーネに振り分けたし、エルフリーデは護衛の任を一時的に解いていた。やっとカールお兄様と婚約することになったの。私の婚約や結婚が遅れたせいで、待たせてしまったわ。
リュシアンは図書館の本をほぼ読み尽くし、何やら香草を使った発明に勤しんでいる。今舐めているのど飴も成果のひとつよ。以前に話の間で咳き込んで、のど飴が欲しいと呟いたら興味を持たれた。あれこれ試作して、半月ほどで完成させたのは驚いたわ。
最初は効果重視で苦かった飴も、今は蜂蜜と柑橘系の爽やかな酸味で美味しく頂ける。
上階に止まった昇降魔法陣から降り、奥にある執務室の前で足を止めると思ったのに。テオドールは別の昇降魔法陣へ乗り換えた。
「陛下は私室なの?」
ここより上は、プライベートゾーンだ。そんな場所に呼びつけるのは珍しかった。以前の空中庭園でのお茶会以来ね。
「空中庭園へと伺っております」
「あらそう」
もうひとつ、のど飴を口に入れた。まだ声が掠れてるわ。平然とした顔で私を抱き上げている男の体力は、本当に無尽蔵なのね。疲れなんて感じないし、全身が筋肉痛の私と大違い。内股の筋肉なんて普段使わな……そこで、ベッドであらぬ姿をしたことを思い出し、真っ赤になった。
「ブリュンヒルト殿下?」
「何でも、ないわ」
多少の知識はあったけど、全然役に立たなかった。ちょっと悔しい。だってテオドールがあんなに詳しいのは、経験済みだからでしょう? 嫉妬なんて醜いだけなのに、イラっとしてしまった。
深呼吸して、今度こそ到着した空中庭園に足を踏み入れる。私は抱き上げられたままなので、表現が違うかしら。
「呼び立ててごめんなさいね。あのままだと、結婚式までにお腹が大きくなりそうで。心配になっちゃったの」
ふふっと笑うお母様の隣で、お父様が申し訳なさそうな表情を浮かべる。呼び立てたことじゃなさそう。機嫌がいいお母様はややS気があって、M系のお父様との相性は抜群だもの。
私達は当然、Sな妻とMな夫だと思うわ。まあベッドの上は逆転するけど、そこがお母様達と違うところよ。少なくとも私がテオドールに跨ったとして、一瞬で逆転される図しか思い浮かばないもの。勝てないわ。
「ストップかけるために呼んだの?」
「一番の理由はそこね。もうひとつあるから、まずは腰掛けて頂戴」
用意された長椅子を示される。クッションや毛布が敷き詰められ、柔らかそうだった。そっと下ろされ、すぐに回り込んだテオドールに膝枕される。家族だけとはいえ、どうなのかしらね。抗議の視線を向けられ、テオドールは幸せそうに口元を緩めた。
「そのような色気のある視線で、誘っておられるのですか」
体中が痛むけど、無理して右手を持ち上げて頬を叩いた。
「どう解釈したらそうなるの。反省しなさい、テオドール」
「本当に、あなたに似合いの夫ね」
どこをどう見たらお母様の感想になるのか、小一時間ほど突き詰めてみたいわ。
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