245.自分で下した罰だけど
バッハシュタイン公爵は社交嫌いで有名だ。先代は逆に社交的すぎて、あちこちで浮き名を流したわね。母を泣かせる浮気な父を、反面教師にした公爵の気持ちも分からなくないわ。結婚前も今も、彼は妻一筋で知られていた。
他家の夜会も、妻が同行できなれば参加しない。浮気を疑われる状況自体を避けた。未婚既婚を問わず、女性と二人きりにならない気遣いは徹底している。その誠実さが受けて、貴族女性内での人気が高まったのは皮肉な結果ね。
「普通に招待したらいいじゃないか」
「公爵夫人が出産直後に、我が子を放り出して社交に繰り出す人なら、招待状を出すだけでいいけど」
堅物公爵が選んだ女性は、これまた堅物だった。柔らかく表現して、融通の効かない真面目な人かしら。未来のバッハシュタイン公爵である息子を残し、王宮に来る人じゃないわ。そうしたら夫の公爵自身も欠席してしまう。
説得できるとしたら、カールお兄様だけなの。きちっとしたバッハシュタイン公爵と、真面目なのにチャラいカールお兄様。一見するとあまり合わない気がするが、不思議なことに親友だった。幼い頃から互いに競い合う仲だ。きっと公爵を引っ張り出してくれるはず。
「エドに会いに行ってくる」
「ええ、お願いね。頼りにしてるわ、カールお兄様」
機嫌よく手を振って離れるお兄様を見送り、深呼吸する。エドと愛称で呼ぶのは、シュトルンツでもお兄様と公爵夫人くらいでしょうね。エドゥアルド・ライア・バッハシュタイン――私は少し苦手なのよ。
くるりと振り向けば、嬉しそうなテオドールが身を屈める。私が叩きやすいよう頬を差し出すけれど、今回の罰はその程度じゃ済まさないわ。誰にでも噛み付く駄犬は、きちんと躾けなくちゃね。今後のために良くない。
「ワイエルシュトラウス侯爵、三日間私の前に顔を見せないで。いいわね? これが罰よ」
こっそり見守るのは許してあげるけど、その方が自分を追い詰めるわよ? でも隠れて付いてくるでしょうね。目を見開いて「なんと……放置プレイ?」と呟いたのは見逃してあげる。そうじゃないと否定したいけど、意味的に正しいから。
「承知いたしました」
一礼して去る後ろ姿を見つめる私に、近づいたエルフリーデが首を傾げた。
「変ですわね、抵抗しないんでしょうか」
「嫌だと言ったら、会えない日が増えるだけよ。彼は一度失敗したことはちゃんと覚えているの」
以前に同じ命令をして拒み、一週間に伸ばしたことがある。顔を見せても目を逸らし、絶対に声もかけなかった。当然聞こえないフリで完全に無視よ。さすがに堪えたらしく、その後はしばらく扱いやすかったわ。
「罰をここまで重くする必要はないけれど、躾は最初が肝心だもの。手は抜かない主義なの」
「なるほど、私も参考にいたします」
あら、カールお兄様も厳しく躾けられることになりそう。興味あるけど、今は筋肉を減らした秘訣が知りたいわ。ひそひそと情報交換し、私は満足して自室へ戻った。椅子に座るなり、いつもの癖で彼を呼んでしまう。
「テオドール……じゃなくて、エレオノール。お茶を飲みましょう」
「はい、ブリュンヒルト様」
察しただろうに、気づかないフリをしてくれるところが、とても好きよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます