第八幕
236.成長に必要な月日が過ぎて
二年経てば、人は驚くほど変わる。私も、周囲も同じよ。エルフリーデはお兄様と婚約した。次期騎士団長の座を目指し、彼女は着々と実績を積んでいる。
「ここにいていいの?」
「我が君の護衛は最重要任務です」
きりっとした表情と口調で答える彼女は、長い髪をきっちり三つ編みにしていた。男性騎士に「本気で騎士として生きるなら髪を切れ」と言われ、腹が立ったのだとか。決闘を申し込み、勝ったらこのまま、負けたら髪を切り落とす約束をした。楽しそうなので見に行ったのよ。
もちろん彼女にバレないよう、こっそりとね。結局バレちゃったんだけど、圧倒的な勝利だった。他の騎士が「うわぁ」「やっぱり」と呟いていたのを見る限り、やっかみで絡まれたみたい。実力が格下なのは一目瞭然、その騎士は遠方へ飛ばしてあげたわ。
私の推薦した騎士を否定する行為は、王太女である私を侮辱するのと同じ。エルフリーデのためではなく、近衛や王国騎士団にこの事実を周知する必要がある。二年でしっかり実績を積んだエルフリーデは、近衛騎士団の副団長を務めていた。
彼女を連れ、私は客間へ向かう。ルピナス帝国の使者と面会するのが目的だった。王宮内で私に危害を加える者はもういない。私もそれだけの実績を積んだの。
女王陛下の娘だからではなく、王太女の私を担ぐ貴族を集めた。裏切りを減らす調査や懐柔は手を抜けない。テオドールの仕事は増える一方で、一時的に執事を解任すると言ったら大騒ぎだった。健康面が心配だったんだけど、一晩中ベッドの脇で泣き続けられたら、こちらが折れるしかないわ。
たどり着いた客間に入れば、外交担当官のクリスティーネが一礼した。裾の広いスカートのドレス姿を見て、事情を察する。どうやら形式だけの訪問で、内容がゼロの会談になりそう。割り切って社交用の笑みを貼り付けた。
退屈な時間を過ごす。私やシュトルンツを褒めまくるだけの貴族を送り出し、貼り付けた笑顔を放り出した。
「なんなの、あれ」
「仕方ありませんわ。有能な者を送れば、邪魔になりますでしょう?」
「それもそうね」
うっかり足を掬われるようなやり取りは、スリルがあって楽しい。ただ毎月経験したいかと問われたら、頻度は年に2、3回でいいと答えるわ。
ルピナス帝国は皇帝をすげ替えてから、無能な貴族が一掃された。宰相に任じたエンゲルブレヒト侯爵が辣腕を振るったのね。クリスティーネもしばらく実家に戻り、父である宰相のサポートをしていた。
今後のルピナス帝国の動きを話し合いながら、二人で廊下を移動する。途中で、正面から来たリュシアンが興奮した様子で駆け寄ってきた。研究していた薬草が完成したらしい。画期的なくしゃみ止めだと力説された。
この二年でリュシアンも成果を上げている。薬の研究で、流行病をひとつ収束させた。貴族も平民も問わず、空気感染する病だったので、薬で治せたのは大きい。民に無料でばら撒くため、薬草園を作りたいと強請られた。
功績への褒美として、薬草園を温室にして、さらに予算も付けておいたわ。獣人のエレオノールは、春になるとくしゃみが止まらなくなる。それを止める薬らしい。苦しそうな姿を見て思いついたのだとか。民にも広がってるけど、あれって花粉症よね? 季節性のくしゃみは、私の独断で花粉症と名付けた。
「エレオノールはどこ? 飲ませて効果を確かめたいんだけど」
「自室にいるわ。ちゃんと本人の許可を得て飲ませるのよ」
了解と口にした直後には、廊下を走っていく。手に持っていた瓶が薬かしら。エレオノールに飲ませるのって、人体実験よね。副作用がないといいけど。
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