227.(幕間)私の勝利を確信した
日本で死んで、物語の世界に生まれ変わった。体を持ったまま異世界に来るのは、転移というみたい。名称なんてどうでもいっか。
大事なのは、私が主人公だってこと。恋愛小説「あなたを愛していいですか」は、友達に借りて読んだ。本が高いから、友達と3人で手分けして買ってたのよ。そうしたらお小遣いの3倍の本が読めるじゃない。
ヒロインは男爵令嬢で、貴族では一番位が低い。それでも美しく明るいヒロインは皆に愛され、第二皇子アウグストと結婚するの。邪魔な婚約者は、お約束の婚約破棄でさよなら。私の天下が訪れる。
物語の通りに進めるため、覚えている知識を活用した。まだ皇太子が決まっていないルピナス帝国で、第二皇子の妻になれば皇妃の可能性が出てくる。第一皇子ユルゲンは好みじゃないし、物語の通りが一番安全よね。
夜会で婚約破棄に持ち込むため、虐められたフリや証拠の捏造に勤しむ。だって悪役令嬢の……えっと、なんだっけ。エンゲルなんちゃら言う侯爵の、クリスチャンみたいな名前の子。その子が私に接触して来ないんだもん。
婚約者に近づく男爵令嬢を牽制したり、取り巻きと意地悪したりしてもらわないと困るのに。代わりに事件を作って、第二皇子に泣きついた。婚約破棄に持ち込む算段がついて、ほっとした途端……物語にないイレギュラーが発生する。
隣国から王女が来るんですって。よくよく話を聞いたら、王太女……それって女性の皇太子みたいな感じ? 初めて聞く単語だけど、物語に出てきたかな。たくさん読んだから混じってて、もしかしたらいたかも。その程度の存在が、重要な役割を果たすわけがない。
無視しても構わないと考えた。第二皇子と腕を組んで入場し、エンゲルなんちゃら侯爵令嬢に婚約破棄を突き付ける。
「クリスティーネ・エンゲルブレヒト、前に出ろ」
「第二皇子アウグスト殿下に、ご挨拶申し上げます」
つんと澄ました顔の美女は、優雅に挨拶した。黒髪はびっくりするくらい艶があって、青い瞳も綺麗。顔立ちがお人形みたいなの。何より許せないのが胸の大きさと腰のくびれだった。
すっごい美人だわ。それもスタイル抜群だ。でも選ばれるのはヒロインの私なの。あんたじゃない。
婚約破棄と真実の愛を見つけたと宣言する第二皇子は、私が虐められた話をすっ飛ばした。あんなに苦労して証拠を作ったのに、と不満に思う。婚約破棄の理由だから、ちゃんと口にしないとマズイよ。あの美女が悔しがる顔が見たかった。
私へのイジメを認めて謝れ。そう突き付けたのに、悪役令嬢は平然と笑った。皇帝の許可を取り付けてこいと傲慢な態度が腹立たしい。小説だとここで赤ワインを侯爵令嬢に浴びせるんだよ。
シナリオの強制力ってのが働くみたい。通りかかった侍従から奪ったグラスのワインを、第二皇子がぶっかけた……なぜか、別の女に。
広間の中で数人の貴族が悲鳴をあげ、何人かは卒倒した。赤ワインを浴びたのは、白いドレスの金髪美女。それとエスコートする超絶イケメンの男。第二皇子より全然上じゃん。羨ましいのもあって、私は周囲のざわめきを無視して唇を尖らせた。
「あの方はシュトルンツの王太女殿下だぞ?」
「国が滅びる……」
何よ、大袈裟過ぎる。他国の女が勝手に割り込んでワインを浴びた。シナリオにない展開なんて、すぐに排除されるんだから。そう思い、私の勝利を確信した。
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