215.私を楽しませることは無理ね
全員を玉座の前で紹介したことにより、集まった貴族の中に候補者の名前が刷り込まれる。中には妙な反応をする貴族もいた。顔を顰めているのは、子爵や男爵が多い。
舞踏会の形を取った中央のホールへ、一部の貴族が滑り出す。最初のダンスは夫婦や婚約者同士で踊るのが礼儀だ。もし婚約者のいない未婚女性なら、家族が優先された。
「可愛いヒルト、踊ってくれるかい?」
「あら、お兄様。私でいいのかしら……」
意味ありげに視線をエルフリーデに向ける。すると、ぽりぽりと頬をかいた兄は苦笑いして白状した。私の婚約者が確定するまで、お預けを食らったと。告白して返事はもらったのに、事実上の婚約は「待て」を言い渡される。
カールお兄様らしいというか。エルフリーデの忠誠心の強さに呆れちゃう。半分くらいは忠誠心で、残りが悪戯心かしら。翻弄されるお兄様は気の毒だけれど、仕方ないわね。惚れた相手が悪いの。私の大切な護衛騎士は、未来の夫より主君を選んだ。
「ならお願いするわ」
婚約者候補と踊るのは、私が家族と踊った後。この場合ならお父様かお兄様よ。婚約者ならともかく、6人もいる候補の一人とファーストダンスを踊ることはない。滑るようにホールへ出た私は、お兄様の逞しい腕に支えられて回った。受け止められて微笑み、体を寄せ合う。見せつけるように密着して踊り切った。
拍手と称賛の声に応え、テオドールの運んだシャンパンに口を付けた。もちろん、彼の毒見の後よ。知らない人が見たら、間接キスする仲に見えたかも。
「一人を贔屓するのは、王太女殿下らしくありません。僕にもチャンスをください」
ハーゲンドルフ家のニクラスは、笑顔で近づいた。そこそこ整った外見だが、自惚れるほど抜きん出ているわけじゃない。だが本人は、自信があるようだった。
「あなたに?」
名前を覚えていないフリで首を傾げる。わざと名前を呼ばなかった。誰だっけ? そんな私の態度に苛立つニクラスだが、もちろん私に見せるわけがない。隣にいるテオドールへ矛先を向けた。
「一番爵位が低いのに、王太女殿下へ取り入るのは一番早いのか」
本人にとっては軽い嫌味だろう。テオドールに節操なしと突きつけたつもりだった。問題は、会話の間に私を挟んだことよ。これは聞き方によっては侮辱になるわ。ちらりと視線を向けた先で、柔らかな笑みを浮かべたテオドールは微動だにしない。まるで仮面のようだった。
「爵位が低い? なんのお話かしら。爵位で夫を選ぶなら、あなたにチャンスはないわ。それと……王族に取り入ろうと考えるなら諦めなさい。あなたの話術で、私を楽しませることは無理だもの」
ぴしゃんと引導を渡す。もちろん理解できると思ってないわ。都合よく解釈するに決まってる。
テオドールの爵位を子爵だからと軽んじるなら、貴族が通う学院で学び直していらっしゃい。愚かにも程がある。扇を広げて顔を半分隠し、嘲笑う響きを隠さない。このくらい叩いておけば、暴れてくれるかしらね?
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