214.イカサマであっても賽は振られた
集められた候補の中で、最下位一歩手前。紹介された順番に不満はあれど、直接文句を言える相手もいない。並んだ6人の中で、唯一自分より格下と判断したテオドールを見下す態度を見せた。
バカにする態度を隠そうとしないニクラスに、テオドールは視線すら向けなかった。わざと煽って怒らせるのもひとつの方法だ。もし我慢したとしても、別の手段を講じてある。問題はこの男にそこまでの堪え性があるかどうか。
頭の中で計算するテオドールは、口元を笑みに歪める。わざと見せつけるためだった。先ほどの爵位の順番には、大きな間違いがある。これは貴族ではない文官の方が早く気づいた。
ざわりと揺れた文官達の中立派に、私は目を向ける。妻達は理解していないが、文官として王宮で実務を取り仕切る彼らは、違和感を覚えた。王族派の一部も首を傾げる者が出たが、何も言わずに沈黙する。
王家が間違えたのではなく、何かしらの意図があると判断したらしい。この辺が王族派の賢いところよ。王族の振る舞いや考えを察して支える。だけど、妄信的に信じるわけではなかった。おかしいと思えば、自らの爵位や命を懸けても訂正する正義を持つ。
気づいて黙る様子見の王族派、指摘した方がいいか相談する中立派、何も気づかない貴族派……いえ、貴族派の中にも考え込む数人が見受けられた。あの辺は残しても使えるわね。私の目的は、未来の治世の邪魔になる愚か者を排除すること。だけど、貴族派を消す気はないの。
派閥を減らすのは危険よ。考えが偏り、私が愚かな言動を行った際に盲信する者ばかりになる。それは国を傾ける行為だった。簒奪王の物語に多いけれど、王位を奪ったついでに異論を唱える貴族を一掃する。自分に阿る者を貴族に据える。それじゃ、裸の王様だわ。
己にとって耳の痛い忠言をする者を残し、彼らの意見を蔑ろにしない。それだけで世界は広がるというのに。様々な種族、慣習、特徴を持つ人が暮らす大陸を制覇しようとする私が、広がる世界を否定するなんて許されなかった。
文官達の元へ、王族派の伯爵が一人近づく。どうやら簡単に事情を説明してくれるみたい。任せてしまいましょう。ひそひそと何かを説明し、文官達は頷いて口々に礼を告げる。夫人達はカーテシーをして伯爵を見送った。
お母様が扇を広げ、ひらりと振る。その合図を受けて私は立ち上がった。選ばれた6人を含め、広間の視線がすべて集まる。大きく深呼吸して、宣言した。
「私、ブリュンヒルト・ローゼンミュラー・シュトゥッケンシュミットは、王太女として今の6人から伴侶を選ぶ。これは確定した未来である」
賽は振られた。手を離れた賽子の目は、幾つを出すのか。その賽子に、イカサマが仕掛けられたとして。誰も指摘しなければ、イカサマは正しい結果として歴史に刻まれる。
本当に政は複雑で、単純で、とても恐ろしいものよ。
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