202.あなたの手足に鎖を付けたいのね

 アッサム茶で口直しをしながら、答え合わせをした。といっても、最後の部分だけね。途中経過は報告を受けたはずだし、ファビアンからも話を聞くでしょう。二度手間はごめんだわ。


「ファビアンと呼んだそうね」


「ええ。気に入ったの」


 にっこり笑って「ちょうだい」と強請ってみる。どうせダメと一蹴されるでしょうけど。そう思った私の予想に反し、お母様は頷いた。


「いいわ、譲ってあげる」


「え? 本当に?」


 便利そうだけど、本当に貰ってもいいのかしら。本人がいない場所で決めていい話じゃないと思うの。様々な感情が浮かんだ私に、お母様は本題を切り出した。


「貴族派が動いているわ。あなたの手足に鎖を付けたいのね。どうするつもり?」


 王配となる婚約者候補を、私はまだ公表していない。このままでは王配の地位を狙う貴族達に、不要な婚約者を押し付けられる。お母様の言い分はよくわかるし、同じ立場なら私も同じ警告をする。でも……。


「お母様、鎖を付けるより外されないようにする方が大変ですのよ」


 猛獣に鎖を付けたとして、外れる可能性を考慮しなければいけない。檻も同じね。なら、一度アクセサリー代わりに、大量にぶら下げてみるのも悪くないわ。


「面倒な道を選ぶのなら好きになさい。私達からは、テオドールとリュシアンを推薦しておくわ」


「ありがとうございます」


 貴族は邪魔な二人を排除しようと動く。この部分を女王として抑えると言われた。それだけ危険な手段を使ってくる可能性が高いのね。女系相続の利点は血の繋がった子がはっきりすること。誰の子を孕もうと、私が産むなら血縁は保証される。


 大きな問題点は、望まない妊娠でも子どもに罪はないことだった。襲われて望まず孕んだとしても、生まれる子から継承権を剥奪出来ないの。もし女王による継承権剥奪を実行したら、正統性が失われる。正当な理由なく、赤子から権利を剥奪することは事実上、不可能だった。


 護身用に二人を付けると言ったお母様の言葉は、物騒な襲撃を示唆している。すでに可能性ではないのだろう。お母様が手を打っても、手違いがあれば……。ゾッとした。


「警告も推薦も、心に刻んで行動しますわ」


「そうしてちょうだい。孫を抱く時に、顔を顰めたくないの」


 女王の立場ではなく、母として告げられた本音が擽ったい。大きく深呼吸して覚悟を決めた。守られる側の覚悟や理解がなければ、どんなに手厚い警護を敷いても突破される。


 ドレスの上から、腹部を撫でた。この胎は女系一族の未来を孕む、大切な場所。相応しくない後継者を宿すわけにいかない。


「でも早く孫を抱きたいわ」


「マーリエ、僕もだよ」


 祖父母になる夢を語られても、すぐには応じられないわ。少なくとも王位継承が終わってからになるでしょう。お腹に胎児を抱いて、継承式をしたくないのよ。忙しいだろうし、ドレスも難しいじゃない。


「お母様、お父様も。王位継承後になりますわ」


「それはダメよ」


「マーリエが王位を維持している間に、婿をもらって産んだ方が楽だよ」


 そういえば……お母様が私を産んだのは、王位継承前でしたわね。あら、もしかして急がないとマズイかしら。

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