203.ネーミングセンスを完全否定された
「というわけで、婚約者候補量産大作戦と行くわ」
「ブリュンヒルト様、ネーミングセンス皆無ですね」
「確かに直球過ぎます」
ぐさりと容赦ない指摘をされて、胸を押さえる。今のは刺さったわ。クリスティーネの指摘と、エルフリーデの同意が容赦なく私を打ちのめした。
合流の邪魔をしたマイヤーハイム伯爵とお母様が手を引いたので、クリスティーネは早々に入国した。すぐに王宮へ呼び寄せ、私が管理するフロアに部屋を与える。
これは側近を大歓迎で迎えた話を、貴族派に吹聴するためよ。現時点で王族派と中立派を合わせても、貴族派に数で負けているの。ただ、これは数の話よ。上位貴族のほとんどは王族派に属しているから、力関係ではこちらの方が強い。
いわゆる金で爵位を買った商人や裕福な平民が、貴族派の大多数を占めている状況だった。彼らは己の利益を優先するから、あれこれ規制をかける王族派が邪魔なのよ。中立派は王宮に勤める文官で構成されており、別名王宮派と呼ばれる。自分達の職務に忠実で、邪魔されなければどちらの派閥にも入りたくない人達よ。勢力争いから数歩離れて見守る、賢い集団だった。
「エレオノール、依頼案件の手筈は?」
「少しお時間を頂きますが、可能ですわ。そうですね……半年ほど」
「長すぎ、その半分で仕上げて頂戴」
私が依頼したのは、中立派の取り込みだ。文官のトップに立つ予定のエレオノールに、彼らを掌握しなさいと命じたの。半年も待てないと宣言され、彼女は肩を竦めた。ピンクのウサ耳が揺れる。考えた後、慎重に返事を寄越した。
「確約は出来ませんが、最短でお応えします」
それでいいわ。満足して頷く。出来ないのに「やります」と簡単に口に出す者は信用できない。自分が出来る範囲をきちんと見極め、冷静に決断を下せなければ困るの。私の治世における、未来の宰相候補だもの。
「辞令を通達するわ。エルフリーデ・ツヴァンツィガー、シュトルンツ国王太女ローゼンミュラーの名において専属騎士に命じます」
「謹んでお受けいたします、我が君に忠誠を」
跪いたエルフリーデが、精霊の乙女の剣を捧げて辞令を受ける。その剣へ手を重ね、忠義に報いることを宣誓した。忠義を捧げる騎士に、きちんと報いることを誓う。ごく当たり前のことなのに、他国では忠義を受けた者が「励むように」と激励するパターンが多かった。
ある意味失礼よね。命懸けの忠義を捧げられたら、きちんと返す義務がある。王族として宣誓する私は、これで有能な護衛を手に入れた。大地色の髪に、森の緑の瞳を持つ精霊の乙女。彼女なら私を危険から遠ざけてくれるはず。
ピンクのウサ耳をふるりと揺らす愛らしい元王女に向き直った。情熱的な赤毛と明るい新緑の瞳を持つ彼女は、シュトルンツの女侯爵の地位を得る。未来の褒美のために頑張って欲しい。
「エレオノール・ラングロワ、私の秘書官に兼務で宰相見習いを命じるわ。将来の宰相になるべく、力を付けて頂戴」
「畏まりました、拝命いたします」
未来の宰相になるため力を尽くすのは当然なの。その前に力を付けてもらわないと困るわ。無能な宰相なんて、足手纏いだから。あのバルシュミューデ侯爵が「見込みがある」と判断したなら、間違いはない。お祖父様の見立てを信じるわ。
微笑んで待つクリスティーネに向き直った。
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