幕間

180.(幕間)見透かされていた

 大陸の中央に位置するシュトルンツ国。小国をいくつも飲み込み、大量の属国を従える。圧倒的強者だった。現在、大陸には25の国がある。


 独立する国は6つだけ。我がルピナス帝国、忌々しいシュトルンツ国、滅びかけのアリッサム王国、跡取り不在のアルストロメリア聖国、獣のミモザ、そして別格の強さを誇る魔国バルバストル。それ以外はすべて、シュトルンツの支配下だった。


 まともに国が成り立っているのは半分か。愚かにもアリッサムは、大国シュトルンツに正面から喧嘩を売った。国境の公爵家と領地を切り取られ、無様な死に体を晒す。


 ハイエルフは跡取りを失い、魔国は手を引いた。ミモザは予言の巫女と呼ばれる異世界人のせいで、大きく傾いた。王を失い、権威は地に落ちる。終いには他国の軍に領地を踏ませる始末。何ともお粗末な状況だった。


 各国の力を過信して待ったのが失敗の原因だ。これなら俺が裏で手を回し、シュトルンツの評判を貶めるべきだった。


 数ヶ月前に手に入れた奴隷が、ヴィンター国の元王女だという。見目麗しく若い女を使い捨てにするのは惜しいが、仕方あるまい。ルピナス帝国が頂点に立たねば、シュトルンツ駐在大使である俺の立場は低いまま。


 高慢ちきな女狐が支配する国に頭を下げ続けるのは疲れた。彼女に知恵をつけ、兄弟姉妹へ連絡を取らせる。ヴィンターはハレムがあり、美男美女が多い国だった。王族はさらに美しい外見を誇る。


 シュトルンツの属国の上層部を誑かし、大国の足元を崩す。ついでだ。アリッサム王国から奪ったツヴァンツィガーの領地も手に入れるか。


 欲張っているのは承知で、根回しを始める。欲しいものは待っていても手に入らないのだ。手伸ばして掴んだ者が勝者だった。アリッサム国の愚かな貴族を焚きつけ、その気にさせるだけでいい。奴らがうまくいけば、横から攫う。もし失敗すれば、責任は奴らに押し付ければよかった。


 シュトルンツに対して仕掛けた連中が失敗する原因は、逃げ道を事前に用意しないからだ。自ら矢面に立つから失敗する。駒のように他者を動かせばいい。その利益だけを享受するのが、賢さと有能さの証だった。


 手配はすべて完璧だ。どこにも手落ちはなかったのに。ヴィンターの王族は処分され、ツヴァンツィガーは元同国であった貴族軍を退けた。ローゼンベルガー王子が動いたと聞いたが、なぜ、彼が目の前に……。


「カールハインツ王子、獲物は見つけました?」


「ああ、こいつだ」


 ツヴァンツィガー侯爵令嬢となったエルフリーデを従え、大柄な王子は剣を振り回す。屋敷の護衛はすでに撃退され、俺は壁際に追い詰められた。証拠や繋がりは残さなかったはず。


「バカだな、どうしてヒルトを騙せると思った?」


 最初から知っていたのだ。そう言い聞かされ、王子の突き出した剣が首に触れた。ひやりとした感覚、わずかな痛みが走り……俺は首のない体を見つめながら闇に落ちた。

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