155.華を救いに来たのよ

「映える色をお選びになったのですね。心当たりはおありですか」


 白に青を使い、赤を使用しないドレスの色を褒めながら、さり気なく赤ワインをかけそうな人物を尋ねる。うん、本当に有能だわ。彼女なら、私の側近候補に名を連ねてもいいわね。溜め息が漏れた。外交で力を発揮して欲しい人材を、現場から引き抜いたらダメね。


「ええ、こちらのお国では「運命の愛」が流行るのでしょう?」


 すでに流行しているのではなく、これから広まるはず。予言のように口にした言葉に、彼女はすぐ反応した。大使であるユリアは、この国の小さな情報まで知っているだろう。満面の笑みで相槌を打った。


「ええ、すでにご存知とは流石です」


「踏み躙られる華を救いに来たのよ」


 大人しくエスコートするテオドールを連れ、後ろにエレオノールを従えて進む私は、各国の大使から挨拶を受ける。一段落したところで、皇族が入場した。どこの国でも同じね。偉い人ほど後から入りたがる。この仕組みって無駄が多いから撤廃したらいいのに。


 シュトルンツなら自由に出入りできるから、都合に合わせて参加が可能だった。文官が最初と最後だけ妻のエスコートで顔を見せる、なんて方法も使えるの。効率的でしょう?


「我が麗しの薔薇姫、あちらに」


 テオドールがそっと誘導する先は、夜会に使われる広間の右側だった。第二皇子がいる側になる。微笑んで会釈し、大使ユリアと距離を置いた。彼女は外交の仕事を果たすべきだわ。私の我が侭に付き合わせたら、お母様に叱られてしまう。


 途中で侍従を呼び、グラスを運ばせた。中に入っているワインを揺らし、光に透かす。混ざり物はなさそうね。薄めてもいないわ。確認した私に、テオドールが銀の匙を取り出した。くるりと回して毒がないことを確かめ、先に彼が口を付ける。


「本当はあなた様の唇が触れたグラスで飲みたいのですが」


「テオ、私に毒見をしろと言うの?」


「いえ。毒見後のグラスを最後にお譲りください」


「……上手に出来たら、考えてもいいわ」


 嬉しそうね。後ろのエレオノールがドン引きじゃない。彼女にも幻影の尻尾が見えてると思うわ。ぶんぶん高速で振ってるはず。


 エレオノールも我が国に来て、最初に毒見の作法を教わった。バルシュミューデ侯爵が手を抜く心配はない。スカートのベルト部分に作られた専用のポケットから匙を出し、グラスの縁を滑らすように差し込んだ。綺麗な指先が匙を回し、すっと抜き取る。


 私達が手にしたのは白ワイン。どうせ飲まないのだから、私のグラスの毒見は不要なのだけど。飲むつもりだったと示すために、銀の匙を入れた。テオドールが匙を片付けたのとほぼ同時、騒ぎは始まった。


「クリスティーネ・エンゲルブレヒト、前に出ろ」








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10/13、0:10にもう一話更新します

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