142.(幕間)予言の詐欺師キョウコの末路

 悪役令嬢のウサ耳王女を呼んだ金髪女性は、振り返ったら凄い美女だった。あれよ、ほら。海外の有名モデルって感じ。人間離れした美貌の表現が似合う。動く人形みたい。


 ウサ耳王女が私を見下げるように「礼儀知らず」と言い切った。その一言でぷつんと来た。この金髪美女が偉い人なの? だとしても、人間って平等なんだと習った。たしか、イエス何たらがそう言ったんでしょ。


 まるで別次元の人種みたいに振る舞うから、腹が立って暴言を吐いた。この女のどこが偉いのよ、私と同じじゃない、ってね。そうしたら、ウサ耳王女に掴まれた指が折れる、と思うほど曲げられた。激痛に叫ぶ間にお茶会はお開き。せっかく着飾ってきたのに。


 きっと私が貴族じゃなくて、異世界人だからよ。これは差別だわ。一緒にお茶も飲めないって言うのね。そう泣いたら、ジェラルドは困ったような顔をしながらも、慰めてくれた。いつもより身が入ってないけど。まさか、金髪美女への乗り換えを考えてるんじゃないでしょうね!


 夜会で悪役令嬢のウサ耳女をやっつけて、私が次期王妃になる。そう決めて、ジェラルドを唆した。一緒に夜会に登場した時のあの顔、笑っちゃうわ。引き攣ってるじゃん。


 ところが、また金髪美女が邪魔をした。どこかの王族なのか、権力を傘にきて私を咎める。なんなのよ! この物語は私が主人公、ヒロインなんだから! 邪魔しないで。


 言葉を並べて追い払おうとしても、向こうが上手。あっという間に会場は私とジェラルドに厳しい目を向けた。どうして? 予言の巫女である私は偉いはず。そんな風に睨まれる理由はないのに。


「シュトルンツで裁きます」


 金髪女の宣言に、獣人がざわりと揺れた。そんなに有名なの? 状況が理解できなくてジェラルドを見上げれば、彼は青褪めていた。国王陛下まで頭を下げて、偉そうな金髪女に謝罪を始める。宣戦布告? いいわよ、獣人の方が強いんだからね! 後で泣いて謝っても許してあげない。


 しかし、貴族や王族の反応は予想外だった。負けが確定した戦に出向くような悲壮感が漂う。ウサ耳王女が私に厳しく言葉を放つも、すぐに流された。何が起きてるの……。引きずられて夜会会場を出た私は、悔しくて怒りをぶちまけた。


 いつも味方をしてくれる貴族が数人、あの生意気な金髪女を処分する方法を提案する。実行するため、ジェラルドの名も使った。護衛を遠ざけて、確実に仕留められるように。国王陛下も協力したから確実ね。ここまでお膳立てしたのに、まさかの失敗。


 ヒロインなのに断罪されて……それも落ちる国を間違えたみたい。乗り換えようとしたら、氷に閉じ込められた。食事も出来ないし着飾るのはもちろん、いい男がいても口説くことも出来ない。なのに意識ははっきりしているのが腹立つ。この魔法、絶対に根性ひん曲がった奴が考えたと思う。


 氷のまま私は運び出され、牢に設置されて盗まれた。氷が砕けたのに、また凍らされて。もう自由はないのだと理解する。この先、どんな奴の手に渡るのか、何をされるのか。考えるだけで恐ろしくなった。


 世界には、逆らってはいけない人がいる――そのことを私が理解したのは、手遅れになってからだった。






 氷漬けになって何年経ったか。ある日突然、獣人の群れに投げ出された。爪や牙を使って彼らは氷を割っていく。助けてくれるのね! 期待した私の肌が外に出て、それでも彼らは爪を下げなかった。肉が抉られ血が溢れ、悲鳴をあげても無視される。傷が熱くなり、やがて寒くなり……意識が途絶えるまで。


 こんな死に方するために、私はヒロインになったんじゃない。

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