幕間

141.(幕間)予言の巫女キョウコの思惑

 前世で死んだのかな。どうやって来たのか。新しいこの世界で、私は小説のヒロインだった。「異世界ならもふもふ堪能しなくちゃね!」の世界よ。読み終えているけど、内容の詳細は曖昧だ。


 でも十分よ。空から舞い降りた予言の巫女は、王太子ジェラルドと恋仲になる。狼獣人である彼は、番と定めた相手に優しい。個人的には金髪碧眼の王子様がいいけど、獣人の国だから全身獣じゃないだけマシ。灰色の髪でも諦める。大切にしてくれるなら、毛色の違う王子でも我慢しなくちゃ。


 恋愛小説だから、当然ヒロインにライバルが存在する。悪役令嬢ってやつ。私の場合は、王太子ジェラルドの婚約者で実の姉エレオノールだった。赤毛に緑の瞳の、可愛い系ウサ耳王女なんて嫌味よ。血が繋がる姉弟で婚約って、本当に獣だった。私も弟がいたけど、結婚なんて考えらんない。


 この世界に家族や知り合いがいない私は、このままだと生きていけない。ジェラルドと結婚して、ハッピーエンドを迎えるしかなかった。美味しいご飯も、綺麗なドレスや使用人がいる生活、王宮での暮らしは失くせない。ゲームじゃないから、原作通り進むはず。


 小説の原作通り、王女は私に嫌がらせをした。可愛いレベルだけどね。それを大袈裟に嘆いて騒ぎ、ジェラルドの同情を買う。私に惹かれるジェラルドは、エレオノールを邪険に扱うようになった。悪役令嬢のざまぁ小説も流行ったけど、やっぱりヒロインは強い。


 この小説ではざまぁ展開はないのが残念ね、王女様。生まれながらに楽をしてきたんだから、これからは私に譲りなさい。悔しそうなウサ耳美少女を見るたび、気分がすっとした。未来の王妃は私、国王陛下だってそう言ってくれた。もうハッピーエンドは覆らない。


 そう思った矢先、小説にない展開が始まった。隣国シュトルンツの王太女が表敬訪問に来るらしい。王女が歓待役をするから、私は表に出るなですって? 冗談じゃない。未来の王妃は私、他国の要人が来るなら、顔合わせをすべきは私だわ。


 着飾って、シュトルンツの使者が到着した庭へ向かう。ここの庭、花が少なかった。緑ばっかりで地味なのが気に入らない。いつか王妃になったら、原色の花をばんばん咲かせてやる。お茶会のセットが用意された一角で、にこやかに挨拶をする一行を発見した。


 ラベンダー色のドレスを纏う金髪の美女が、邪魔。茶色の髪の女なら、私の方が可愛いけど。隣のイケメンは誰かな。もしかしたら、ご褒美の攻略対象追加だったりして! 金髪碧眼の王子様って感じだ。


 期待しながら近づけば、侍女が邪魔をする。またエレオノールの妨害かも。いい加減、ジェラルドに嫌われたんだし諦めればいいのに。私を誘わないなんて、嫌がらせだと大騒ぎしてやる。


「皆さん、酷いぃ。私も混ぜてください。誘いもないなんてぇ」


 くねくねとシナを作りながら近づき、ジェラルドの腕に絡みつく。金髪の美女に睨まれた気がして、怯える仕草を装う。これでこの金髪女が悪役よ。堂々と指差した。


「この人、誰?」


 なぜか周囲が静まり返った。

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