138.俺が欲しいのは――SIDEテオドール
森へ追い詰めて狩りの獲物とする。民への褒美と娯楽の提供、ついでに執政側への不満を逸らすよい手段だ。感心しながら、手伝いに奔走した。
忙しい中で王配殿下からの呼び出しに応じれば、思わぬ指示を受けた。かつての兄弟姉妹を陥れる覚悟があるか、と。尋ねられて即答した。大切なお嬢様の計画を邪魔する者を、許して放置する理由がない。もしお嬢様が動かなければ、俺が独自に動いて処断するつもりだった。
名も知らぬ兄弟や姉妹は、俺のように命を懸ける主君を得られなかった。それは不幸なことだ。だが同情はしない。お嬢様の命令を遂行しながら、王配殿下の指示もこなした。この方が動くのなら、ルピナス帝国がヴィンターの元王族を唆した裏事情は、女王陛下もご承知なのだろう。
娼館に売られたり、捕らえた男達の奴隷として連れ去られる彼らを見ても、感情は動かなかった。お嬢様に逆らったなら苦しんで死ねばいいし、生かすなら最低の扱いを受けさせなければ満足できない。
娼館に買われた者は、性病でも移してやろうか。ああ、だがお嬢様が統治する美しい国に、そのような害悪は不要だ。痴話喧嘩を嗾けて殺される方がいいな。気づかれないよう、あれこれと策を練る。
捕まえた最後の元王女を連行し、お嬢様は明るい表情を見せた。アリッサム王国は崩壊の兆しを露わにし、アルストロメリア聖国も国力を落とした。どちらもお嬢様により、有力な柱を引き抜かれた国だ。ミモザ国さえ手のひらの上で転がし、お嬢様の視線の先に残るは――ルピナス帝国のみ。
大陸制覇を目指すお嬢様は、若さを時間に置き換えて味方とした。直接攻め込んで国を滅ぼせば、すぐに戦果が手に入るが損害が大きい。民を犠牲にした戦は、必ず王家への不満を生んだ。過去の歴史を教訓に、お嬢様は搦手で国の中枢を落としていく。その手腕は、恐ろしいほど正確だった。
まるで……未来を知っているかのように。
「ねえ、21王女って義妹でしょう? 助けようと思わない? すごく綺麗な子だったわ」
にこにこと何を言われたのか。仰った内容を反芻して、否定した。あの程度の顔は見慣れているし、豊満なボディもそそられない。第一、俺の方が義妹より整った顔をしていた。俺が欲しいのは、目の前にいるあなただけ。理解せずに煽るお嬢様に、悪気がないのが凄い。
俺が自分に惚れると思っていないのだ。恋愛対象としてまったく意識されていない、と項垂れる時期は過ぎた。お嬢様が俺を選んでくださるよう、仕掛ければいい。俺がいなければ日常生活に支障が出るほど、存在と愛情を注ぎ込む。
王配殿下はこれを見越して、俺が執事であることを許した。大切なお嬢様の斜め後ろで、命懸けで彼女を愛する権利を得た。ならば活かしてみせよう。
覚悟してくださいね、お嬢様。
にっこりと満面の笑みで、心で宣言した。驚いたように目を見開いた後、お嬢様は視線を逸らして頬を染める。どうやら脈はありそうだ。
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