137.気分のいい見せ物じゃないわね

 最後の獲物が捕獲されたのは、お昼過ぎだった。美味しいお昼を堪能し、お昼寝をした後の私は、乱れた髪を整えてテントを出る。眠る前にドレスを着替えておいて良かったわ。皺にならずに済んだもの。


 観覧席よろしく用意された天幕付きの椅子に腰掛け、運ばれる美女を眺めた。呆れることに、肌の露出が高いドレスで逃げたのね。擦り傷や虫刺されが目立つ白い肌、破れた薄布のドレス。森の中で苦労した様子が見て取れる姿に、扇を広げて口元を隠した。


 あの胸の部分の破れ、ちょっと危険じゃない? 見えちゃうわよ。心配する私をよそに、歩けない彼女は引きずられ、人々の輪の中へ放り出された。両手を前で拘束されている。


「検分を始めなさい」


 王太女の私がいるから、あまり危険な露出はないわよね。そう思ったけど、仕置きと尋問に長けたハレムの元侍従長は容赦なかった。俯いた21王女の金髪を掴み、ぐいと顔を上げさせる。整った顔が歪むのを見ながら、反対の手で彼女の肩に触れた。


 期待に満ちた声が湧き上がる。男達の歓声に頷いた彼は、薄布に手をかけて引っ張った。びりぃ……無惨な音を立てて、元王女の服が破れる。上半身が露出され、豊満な胸が溢れた。前で手首を縛られた彼女が慌てて胸を押さえる。その隙に、今度はスカート部分の布が破られた。


 下半身は下着のお陰で露出しなかったけど、白い太腿や下着がぴたりと張り付いた尻が揺れる。やり過ぎだけど、口出ししない約束なのよね。はぁ……大きく溜め息を吐いて、口元の扇を目の近くまで上げた。


 悲鳴をあげて異国の言葉で騒ぐ彼女を、元侍従長は簡単に押さえつける。足を広げさせ、下着の上から撫で上げた。うわぁ、ハレムでの女性の扱いに想像がついちゃって……げんなりしながら目を逸らす。こういうの、見せしめ目的でも好ましくないわね。


「そこまで」


 テオドールが声をあげたことで、それ以上のストリップは中止となった。代わりに淡々と黒子の位置などを確認し、彼女に布が掛けられる。同性として最低限の温情よ。


「主犯は王宮で尋問後、処刑が決まっています。当初の約束通り、金貨60枚で買い取るわ」


 王都で3年は遊んで暮らせる高額に、21王女を捕らえた若者が進み出た。父親と一緒に罠を仕掛けて捕らえたらしい。高額の金貨を渡すと危険じゃないかしら。帰り道に襲われても困るし。


「分割払いも出来るわよ?」


「それでお願いします」


 毎年金貨2枚ずつ、30年払い。なんだか前世のローンみたいだけど、高額の金貨に目の色を変えた冒険者に襲われたら気の毒だわ。安全策を講じ、さらに特殊な割符を発行させた。血を染み込ませた割符は本人以外が持ち込んでも、金貨の支給が受けられない。


 いわゆる信託ね。王家が払った金貨は、銀行に当たる商業組合が預かる。利息もつくので、全額受け取るよりお得だった。割符が出たことで、奪える金貨が2枚に減り、冒険者達も諦めたようね。


 シュトルンツで金貨1枚以上の強盗は、利き腕を肩から切断する罰を受ける。金貨2枚で利き腕を失うのは、リスクが高すぎるもの。


「狩猟大会は終わりよ。皆、ご苦労でした」


 私のセリフはここまで。王都で処刑が行われる日時などは、騎士から発表される。無事に終わったと安心した私は、用意された馬車に乗り込んだ。向かいに腰掛けるテオドールの平然とした顔に、ふと意地悪な質問が浮かぶ。


「ねえ、21王女って義妹でしょう? 助けようと思わない? すごく綺麗な子だったわ」


「お嬢様、ヴィンターの王族は美しくて当たり前です。あの程度の容姿で、綺麗と称されるのは褒め過ぎかと」


 遠回しに質問を撥ね除けられた。話を逸らされた感じね。まあ、確かに午前中の双子やあなたの方が、整った顔をしてるけど。じっと見つめても穏やかな微笑みが崩れないので、私は追求を諦めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る