136.獲物に追い打ちをかける執事
葡萄ジュースで割ったワインは飲みやすくて、ついつい量が進んだ。崩れるように机に伏せた私は、そのまま眠ったのね。向かいで顔色も変えずに、ワインだけ飲んでいたテオドールの前で。
ベッドの中で、二日酔いの余韻もなくすっきり目覚めた私は、固まった。いつ着替えたの? 誰によって?
「おはようございます、お嬢様」
「おはようございます、ローゼンミュラー王太女殿下」
侍女と一緒に入室した執事に問い質すこともできず、私は悶々とした疑問を抱えたまま朝の支度を始めた。軽めの朝食を済ませ、昨日より華やかなドレスに袖を通す。といっても、裾はくるぶし迄、上着を羽織るためノースリーブのドレスだ。胸元はレースできっちり首まで覆い、手袋をしてから長袖を羽織った。
王太女として品位ある装いを心掛け、表彰のために華やかさを添える。王族の着用するドレスは戦闘服よ。どんな服も戦略的な意味があり、条件を満たすドレスにしか袖を通さない。髪をハーフアップにして、若さを強調した。
「では参りましょうか」
「「はい」」
侍女や執事を連れて宿を出る。外で敬礼する騎士を従え、私は馬車に乗り込んだ。向かいに腰掛けたテオドールから、早朝入った連絡の報告を受ける。
「まあ、もうそんなに捕まったの?」
まだ捕まっていない3人のうち、2人が捕獲された。深夜と早朝に、見張りの騎士によって確認されている。正式な検分はまだだが、間違いないと思われた。残るは1人、女性なのに頑張るわね。
捕まった王子二人は、昨日と同じように犯罪奴隷として処理する。けどね、主犯の21王女は別だった。彼女だけは私が連れ帰るわ。側近ではなく、戦利品として。買い取る予定なのよ。
振動の少ない馬車が止まり、手を差し伸べるテオドールに微笑んで降りる。昨夜の着替えやベッドへ運んだ件は、気づかなかったことにしましょう。ええ、その方がいいわ。私は何も気づかなかったの。自分に言い聞かせて、王太女としての役割を果たすことに専念する。
「検分をはじめて頂戴」
「承知いたしました」
騎士により確保された若者二人が引き摺られてくる。双子の王子は顔立ちもそっくりで、テオドールに似てるわ。振り返って顔を確認していたら、こっそり教えてくれた。母親が同じで、父親が違うのね。え? ハレムで、父親が違う……まあ、ヴィンター国ならあるでしょうけど。
テオドールの母は踊り子だったと聞いているので、王以外の寵愛を受けて産んだ弟達になるのね。テオドールを睨みつけ、異国の言葉で暴言を吐く。にっこりと笑顔を見せて、テオドールの指が不思議な動きをした。空中で何かを握るような……双子は青ざめて震える。手話、かしら?
「何を伝えたの?」
「この国の言葉を知らぬため、この後の処遇を伝えただけです」
嘘よ、それ以外に何かしたわよね? この顔をしている時は悪い執事だから、絶対に教えないわ。諦めて肩をすくめた。私に教えられない内容の暴言を吐いたことだけは、確実に理解したもの。正確な意味は知らない方がよさそう。
常に一緒にいた双子は、今後の人生をバラバラに過ごすことになる。報奨を得た用心棒の男は片方を連れ帰る。もう片方は若い女性冒険者のグループだったので、彼を高額で男娼専門の娼館に売りつけた。どっちにしろ、処遇に大した差はなさそう。
残る獲物は一人、気合の入った冒険者やガタイのいい男達が、雄叫びを上げて森に突っ込んでいく。その後ろ姿を見送り、私は報奨金の額を釣り上げた。宣言と同時に、追っ手の数が増えたのは当たり前よね。なにしろ、上位冒険者の3年分の稼ぎだもの。
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