135.狩りのメインは明日に持ち越しね
ヴィンターの元王族は人数が多い。後宮にハレムを設定したのだから当然だけど、そこには仕掛けがひとつあった。王の子以外も、ハレムで生まれた子は王族として認められる。
王弟や王姉の子も、ハレムで産まれれば国王の子どもとして登録された。実際のところ、王族同士の交わりもあったようで、誰が誰の子か判断できなかったのね。それが数代続けば、王族の数は三桁を超える。養うための税が重く民を圧迫し、国は破綻した。
性欲に踊らされた国家の末路だけど、これがB Lゲームの基盤になるってのも変な話ね。R18ゲームなら……あ、でもゲームパッケージに、R指定ついてた気もするわ。
第24王女が捕まってからは、怒涛の収穫……じゃなくて捕獲ラッシュだった。次はまだ若い少年で58番目? の王子よ。それからテオドールより年上の第37王子、妖艶な19王女と続いた。
若い少年は人前で素っ裸に剥かれて、裸体でお持ち帰り。髭の渋い37王子は主人である冒険者に、その場で競売に賭けられた。裕福な商家の奥様がお買い上げになる。19王女は妙齢の美女だったが、やはり冒険者は競売にかけた。
高額で娼館に売却され、冒険者の男はホクホク顔だ。というのも、漏れ聞いた噂では有名な愛妻家で、妻は愛らしい女児を産んだばかりだとか。早く帰って、新しい家に引っ越すのだと浮かれていた。いい判断だわ。
「テオドール、残りは何人?」
「影の把握した限り、あと3人です」
あらまぁ、随分と残っていること。これは今日中に帰れないわね。午後の日差しはかなり傾いて、もうすぐ夕暮れ時。赤い光が強くなった森の入り口で、私は合図を出した。
「引き上げます。夜の狩りは条件付きで認めていいわ。検分と報奨は明日の朝からとします」
宣言した私は民に見送られて、馬車で宿に向かう。今回は領主の館ではなく、民間の宿を借りた。ここの領主、年頃の息子がいるのよ。うっかり泊まったら、私の貞操が危険なの。何もなくても、噂を流されたら終わりだわ。
宿は丸ごと貸し切り、影や騎士を配置する。ついて来た侍女達も宿泊するので、王家の名において身の安全が確保できた。
「お嬢様、お風呂とお食事、どちらを先になさいますか?」
「食事よ……ねえ、さっきの美女にときめいた?」
「いえ」
即答するテオドールは何を? と首を傾げる。その様子に嘘はなく、どうやら本気で何も感じなかったらしい。妖艶なボディーラインの美女でも反応しないなんて、テオドールの本能は壊れてるのかしら。一応姉だから自制が働いたとか?
考え込む私に、彼は淡々と告げた。
「私が愛おしいと思うのは、お嬢様だけです」
「あ、うん。そうね」
お世辞は本当に上手なのよね。いつか本音を聞き出してやりたいわ。その感情が何に基づいているのか、深く考えずに私は陰で扇の骨を強く握った。
あと3人、重要人物がまだ捕獲されていない。狩りは明日で一段落するかしら。夜中に捕獲してくれたら助かるわね。窓の外はすでに薄闇に包まれていた。森の入り口は、交代で騎士が残る。屋台もいくつか残っているらしく、灯りでぼんやり明るかった。
「晴れるといいわね」
「お天気ですか? 午後から雨になりそうですが、午前中は持ち堪えると思います」
食事のカトラリーを宿の物と交換するテオドールは、準備を終えて満足げに頷いた。運び込まれたワゴンの料理を、彼が一口ずつ確認する間、すでに毒見の終わったワインに口を付ける。やや甘いロゼは、芳醇な香りを残して喉を滑り落ちた。葡萄ジュースで割ったわね。睨み付けると「当然です」と言わんばかりの顔で、彼は口角を引き上げる。
「食事にするわ、そこに座りなさい」
同席を求められ、執事は固まる。ふふっ、ちょっとした意趣返しよ。
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