134.犯罪奴隷に落ちるとしても

 大人しく果物やお茶を口にして待つこと3時間。人目があるのでうたた寝もできないわね。飽きてきた私は、用意されたテントに下がった。一時的に人目を避けられるので、用意された寝台に横になる。


「テオドール、誰か獲物を捕まえるまで起こさないで」


「承知いたしました」


 言い終えた彼が出ていって、そのままターンして帰ってきた。


「失礼致します。最初の捕獲者が出ました」


 欠伸を噛み殺して起き上がる。まだ横になったばかりよ? 髪を解こうと思ったのに。眠いけれど、これは仕事。自分に言い聞かせて、ベッドに腰掛けた。さっと回り込んだテオドールが、手際よく乱れた髪を直す。


「誰が捕まったの?」


「第24王女です」


 えっと、王女の方が数が少なかったわね。


「テオドールより年下だったかしら」


「はい。6歳年下です」


 まだ若いわね。自分の年齢を棚にあげ、整った姿を手鏡で確認する。頷いて立ち上がった。さっと手を差し伸べる執事に微笑みかけ、テントを出た。


「遅いぞ、検分始めるってさ」


 無関係でよく似た外見の人を捕まえた可能性もあるので、かつてヴィンターの王宮に勤務経験のある侍従長が調べる。ハレムがある王宮勤めで王女の顔が判別出来る、つまり宦官だった。テオドールが発見し、連れ帰った人材でとても有能なの。特に折檻や拷問の腕前は、天下一品よ。


 じっくり判定する間、周囲は固唾を飲んで見守る。少しドラマティックに演出するよう命じてあったので、もったいぶって元王女の服をはだけたり、足を確認する振りで転がしたりとサービス満点だった。足の指先を確認するのは、元ヴィンター王族は、足の爪が同じ変形をしていることが多いの。遺伝ね。


 多少の辱めも入った検分が終わり、元侍従長は旗を上げる。白なら偽物、赤なら本物よ。揺れる側の色は赤だった。


「やった! 大当たりだ」


 高額な獲物ではないけれど、捕獲者は特典があるの。少し残酷だけれど、仕方ないわ。


「おめでとう、処理して持ち帰っていいわ」


 金貨が入った袋を受け取り、数えた冒険者が拳を突き上げる。わっと観衆が湧き立った。特典は捕まえた獲物を己の所有物に出来る権利よ。いわゆる奴隷に近いわ。我が国に存在する奴隷は、すべて犯罪奴隷だった。


 逃げられないよう鎖を付けたり、閉じ込めることも許される。基本的に殺さずに罪を償わせ、被害者に与えた損害を賠償させる制度なの。だって加害者に一方的に傷つけられて、被害者が損をしたり泣き寝入りをするのはおかしい。捕まえて償わせるのは当然の義務で、被害者の権利よ。


 今回の獲物は国に被害を与えた。だから私が賞金を付けて狩りを主催したの。王家の承認で、獲物は犯罪奴隷となる。賞金と被害額を弁償するまで、ずっと奴隷のままよ。大人しくしていたら、買われた先で愛玩されて生きていけたのに。


 愚かにもルピナス帝国の甘言に踊り、我が国に弓を引いた罰ね。元王女は、逞しい筋骨隆々の冒険者に抱えられ、退場となった。奴隷は首輪が付けられる。その首輪と対になった指輪を持つ主人の命令に服従する仕組みよ。魔術と呼ぶより呪術に近い。


 見目麗しい若い王女が、奴隷として冒険者に下げ渡される。一般的に考えて、扱いは想像がついた。それを許すのは、国への反逆罪に対する贖罪の名目よ。もし負けたのが私なら、あの立場にいたのは……。ふるりと首を横に振る。そうだとしても、これからも私は戦うでしょうね。

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