133.上品に差し出された串焼き
今回の狩りのルールは簡単よ。私が放った黒い猟犬達は、吠え立てて人がいる方へ追い立てる役に徹する。つまり影は捕まえる側の戦力として数えないの。
メインで戦力となるのは、各地から集まった領民達だった。村で用心棒をしたり、街で賞金稼ぎをしている者もいるわ。猛獣や魔物相手に戦う冒険者もいる。基本的に、各物語が混じってるせいで、我が国はなんでもありだった。
中央に位置するってそう言うことよ。四方を国に囲まれたお陰で、海がない。海産物はとにかく高かった。代わりに麦や蕎麦粉、米も栽培して高く売り付けてるけど。山菜は私の進言で山から採取されるようになり、キノコも同じで特産品になった。
残念ながら松茸は発見できていない。米があるから、松茸ご飯が出来そうなのに。でも醤油もないのよね。話が逸れたわ。串焼きの匂いのせいで、頭の中が日本食で埋め尽くされたせいね。
民が狩り出す獲物は、値段が付いている。金額が付いた似顔絵を渡された彼らは、昨晩必死になって覚えたはずよ。高額の獲物を狩って一攫千金を狙う、まさに狩猟祭りだった。
生きていたら正規の金額を支払うけれど、死んだら1割しかもらえない。当然生け捕りを狙うはず。死体になったら価値はないけど、支払額をゼロにしたら死体を放置すると思うの。森に置いた死体を食べた熊が、住民を襲ったら困るわ。前世でそういう事件を聞いた記憶がある。さらに、死体を回収しないと正確な捕獲人数が出ないの。
もし逃げられでもしたら、死んだと判断するしかない。今後の判断が後手に回る可能性があった。いずれ私が足を挫く小石になったら困るから、きっちり数を合わせるためにお金を払う。これぞ生きたお金だわ。未来への投資に近いかも。
「お嬢様、お待たせいたしました」
ふわりと匂いがして、リュシアンがごくりと喉を鳴らす。いい香りね。私も口の中に唾液が溜まり、ワクワクしながら待った。差し出されたのは、煌びやかな装飾が施されたお皿に並んだ何か……。私、串焼きを頼んだのよね?
「串焼きじゃないわ」
「食べやすいよう、串から外しました」
「台無しよ! 串に刺さったのが食べたいの」
「許可できません」
なぜあなたの許可がいるの? と言い掛けて、お父様の顔が浮かんだ。もしかして指示が出てるのかしら。最近よく呼びつけられていたわ。
「誰の許可?」
「王配殿下です」
「……仕方ないわ、これで我慢します」
帰ったらお父様にがつんと言わなくちゃ! 私はもう結婚できる年齢になるのよ。18歳が成人だから、あと1年だけ我慢する。不満を顔に書いて、しっかりアピールしながら銀のフォークで刺したのは貝柱? ホタテみたいな感じね。
ぱくりと口に入れて、笑顔を浮かべた。そっとリュシアンの前に差し出す。
「串焼き、バラしてしまったけれど……どうぞ」
「お? いいのか?! 悪いな」
いいえ、こちらこそ。助かりましたわ。声に出さない本音が滲む口元を、そっと扇で隠した。さすがに吐き出すのはまずい。ぐっと我慢して飲み込んだ。
「う……、やられた」
渋い顔で呻くリュシアンは、お皿の上の魚を突き回す。想像していた味じゃなかったでしょ? すごく香りがいいのに、味は三流以下。生焼けの具材に香ばしく酸っぱいタレは、最悪の組み合わせだった。これ、お金を取ってる商品よね?!
「お嬢様、こちらをどうぞ」
慣れた手付きでくるくると果物を剥いたテオドールは、しれっとした顔で新しい皿を用意した。梨で口直しをする。しばらく屋台の食べ物は見たくなかった。
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