131.手足の切断から始めるわ

 一週間余り、報告書を淡々と処理する。カールお兄様達が戦うアリッサム王国の貴族は、早々に尻尾を巻いて逃げたらしい。国からの支援もなく、こちらに王族の札を切られた。士気が高い我が国の騎士や兵士相手に、よく3日も持ち堪えたわ。


 ただ略奪のために動いたから、指揮系統がめちゃくちゃだった。関係した貴族家は4つ。抗議してすべて取り潰す予定よ。略奪に踏み切るくらいだから、領地も酷い有り様でしょう。早く回収して、民を救ってあげなくちゃ。


 荒れた土地に道を通し、食料や支援物資を運ぶ。それを平等に配布するだけで、簡単に靡く領地と領民が転がっているのよ。どの貴族家もツヴァンツィガー侯爵領と繋がってるから、街道の延長も簡単ね。


 報告書によれば、ツヴァンツィガー侯爵は支援を受けてすぐ、街道の整備に取り掛かった。用意した資材と人材を活用し、僅か1年で大きな道を3本通している。徐々に周囲の街道も整備しているけれど、大動脈となるこの道が今回も生きた。


 やはり有能な方ね。ツヴァンツィガー家を取り入れたのは、最高の判断だったわ。エルフリーデ自身も欲しいけれど、乙女ゲームで紹介されたご両親も欲しかったの。だって「王家を揺るがす実力者」なんて、盛大にアピールされてたら、欲しくなるじゃない。


「カールお兄様とエルフリーデは、もう少し遊んで帰るようね」


 残党狩りを楽しんでいるようなので、邪魔はしない。特にカールお兄様は、猟犬みたいなところがあるの。飛び出したら、獲物を咥えなければ帰って来ないところがそっくり。エルフリーデが上手に手綱を引いているようで、安心したけれど。


 暴走して周囲が見えずに突出し、単独で敵陣に飛び込んだくだりは、読んでドキッとしたわ。まあ、お兄様だから全部蹴散らすけど、やらかした! と顔を顰めた。追いかけた護衛の騎士団は焦ったでしょう。彼らにしっかり褒美を用意しなくちゃ。


「お嬢様、新しい資料でございます」


 持ち込まれたのは、僅か1枚の追加報告。さっと目を通せる程度の内容を、テオドールは口頭ではなく書面で伝えた。声に出して誰かに盗み聞きされないように。


「手足の切断から始めるわ。指先から丁寧に処理してあげて」


「承知いたしました、念入りに処理いたします」


 丁寧に、よ? 念入りにじゃないわ。あなたが念入りに処理したら、数十年は不毛の地になっちゃう。止めようか迷ったけど、別に不毛の地でもいいわ。それはそれで使い方があるもの。


 BLゲーム「亡国の珠玉〜愛するために失うもの〜」で、滅びた小国としか表現されないヴィンター。没落した元王族を狩り出す手筈は整った。逃げ込んだシュトルンツの北部にある森は、安全ではないのよ? 国境はすでに閉鎖し、黒い猟犬も放った。


 ルピナス帝国は手を出さない。その確証があるから、我が国の内部で処理する。内紛の火種として、厳しい罰を与える予定よ。だって、見せしめが一番効果が高くて、民の喜ぶ娯楽なんだもの。

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