114.夜会の広間は中間試験ね

 どこの国の夜会にも共通点はある。未婚の男女が出会いを求める場所、という意味で。


 着飾った紳士淑女が集う広間は、煌びやかな照明に照らし出されていた。


 アリッサム国のような絢爛豪華さはない。素朴な感じのする自然いっぱいのアルストロメリア聖国や、質実剛健を絵に描いたミモザ国とも違った。王宮や夜会という言葉から想像する豪華さはあるけれど、無駄を削いだ感じね。


 絵画や彫刻、花瓶は歴史と由緒が詰め込まれた逸品ばかり。家具に使われた金銀の装飾は、照明により反射しないよう艶消しだった。有り余る財力を誇りながらも、それを控えめに主張する。我が国の方針よ。


 地位の低い者から入場する他国と違い、我が国は好きな時に入れる。王族だから最後だなんて、無駄な決まり事ね。実際、執務が忙しい時のお母様は顔を見せて、すぐに執務室へ戻ることもあるくらい。


 形式や体面より、実を重んじる。カールお兄様は、さきほどエルフリーデをエスコートして入場した。お父様に何か言われたらしく、私のエスコートが出来ないと、半泣きで報告していたわね。婚約者がいなければ、家族か使用人と。そのルールに従い、テオドールにお願いした。


 アマーリエお母様をエスコートするお父様に、無理をお願いする気はないわ。誇らしげに腕を差し出すテオドールに絡め、私は髪飾りを揺らして顔を上げた。


 黒に近い濃紺のドレスは銀の刺繍を施し、胸元のビスチェ部分は刺繍とビーズでびっしり。このビーズは砕いた宝石の欠片を再利用した。他国の招待客も多いから、職人の技術のお披露目に最適ね。


 お飾りは銀細工に紫水晶、金髪は半分ほど結い上げて、残りはふわりと巻いた。入場して最初に、お母様へご挨拶をする。それから王族用に並べられた椅子に座り、広間の様子を観察した。


 エルフリーデはカールお兄様と一緒、ここは多くのご令嬢が集まっている。未婚の貴族令嬢にとって、お兄様は優良物件だもの。未来の公爵夫人目指して、詰めかけた彼女らを捌く兄は、ツヴァンツィガー侯爵令嬢を盾に使うおつもりみたい。


 脳筋とは思えないスマートさで、エルフリーデを庇いながら、人の波を泳いでいく。意外とお似合いかも知れないわ。王太子妃教育も終えた勤勉なエルフリーデは、武術の腕も立派よ。脳筋のお兄様を支え、緊急時は隣に立てる程の実力者だった。


 真剣に考えておきましょう。


 扇を広げて口元を隠し、テオドールが差し出すワインを傾ける。エレオノールはどこかしら。先に入ると聞いていたので、エスコート役をリュシアンに頼んだ。


 人だかりを確認していくが、エレオノールの目立つ赤毛やウサ耳が見つからなかった。まだ来ていないの? 首を傾げたところで、広間の隅に追い詰められた彼女を発見する。その周囲を、気の強そうなご夫人が囲んでいた。


 早速洗礼かしら。ここで助けたら何も身につかない。未来の王妃として教育を受けた彼女のお手並拝見だわ。視線を逸らした先で、同じように見守るバルシュミューデ侯爵を発見した。お祖父様も人が悪いわ。中間試験のおつもりね。


「お嬢様、こちらをどうぞ」


 差し出されたつまみは、ピンが刺さったピクルスやチーズ。お洒落に盛られた小皿を受け取り、軽く目を見開いた。試されるのは、私も同じ……というわけね。

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