103.初代巫女の愚痴がたっぷり

 ひとつ、異世界から来た者が善良とは限らない。ひとつ、異世界の者は常識がない赤子として扱え。ひとつ……そんな感じで、次に異世界人と遭遇した場合の心得が記されていた。


 ほとんどの内容は、異世界人に頼るなの一点張りだった。気持ちは分かる。たぶん、物凄く頼りにされて、あれもこれも相談されたんでしょう。来たばかりの頃は応じていたけれど、気づいたら獣人達が信仰し始めた。べったり張り付いて一挙手一投足に反応するから、嫌気が差したのが伝わってくる。


「ご先祖様は、巫女様を困らせたのですね」


「間違いないわ。ここをご覧なさい」


 エルフリーデは読めるはずよ。日本語で書かれた本音は、妙な位置で行を変えていた。縦読みするのよ。


「あっ、『いい加減にして』か」


「ふふっ。そうよ」


 この予言の書、とても仕掛けが多いの。今のページは日本語の縦読みで、言葉が現れる。すべて平仮名で表記されていたから気づけた。次はもう少し難しいわよ。


「これは分かる?」


 ぱらぱらとページをゆっくり捲った。エルフリーデは首を傾げて本を受け取り、自らも同じように本のページを流し読みする。それでも分からないらしく、首を横に振った。


「ダメです。分かりません」


「ページの一番の上の文字を拾っていくのよ。そうしたら言葉が現れるわ」


「も、ふ、も、ふ……? ああ、分かった! 異世界ならもふもふ堪能しなくちゃね、タイトルだわ」


「驚いたでしょう?」


 ここが小説の世界だと記載したキヨエさんは、どうやら私達と近い時代の人みたい。縦読みなんて、SNSで流行ったんだもの。ページの頭を拾うのは、明け方頃ようやく見つけた。お陰で寝不足よ。


「タイトルを知ってるなら、ほぼ同時期の人なのに、召喚だから時期がずれたのかしら」


「そういえば、あの無礼な予言の巫女は召喚ではないのですか?」


 エルフリーデの質問に、私は小説を思い浮かべた。確か、勝手に転移してきたはず。


「召喚じゃないと思うわ」


「いえ。国の中で巫女を崇める宗教があります。その司祭が、何らかの儀式を行ったと聞いています。おそらく……」


「呼び寄せちゃったのね」


 はぁ。物語の通りとはいえ、あちこちやらかしてくれたわね。小説では突然転移した表現だった。この辺は、物語に合わせて現実が動いた感じかしら。


 獣人達を受け入れるより、ミモザ国を残して属国にした方がよさそう。内部に取り込むのは、危険な気がした。お母様には、そう進言しておきましょう。


「エレオノール、そういうわけで……私達は初代巫女の言葉を正確に読み解けるわ。間違っていた教えは正しく伝え、新しい知識を届けることもできる」


 真剣に聞く彼女へ、用意した中で一番困難な方法を告げた。


「翻訳方法を教えるから、覚えて皆に伝えなさい」


「……っ! ありがとうございます」


 うわぁ、しんどいわよ。そんな顔で眉を寄せるエルフリーデには、唇に指を当てて「しぃ」と沈黙を指示した。私達が翻訳した内容を、獣人は信じないでしょう。ならば、翻訳方法……つまり日本語を伝授するしかない。


 初代巫女の愚痴を読めば、召喚なんて馬鹿な真似、二度としないはずよ。でも日本語を教えるのは面倒くさいから、エルフリーデに任せるわ。

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