101.予言の書は召喚者の手記
懸念した通り、予言の巫女の名は間違った意味で広く知れ渡っていた。その理由が、愚かな国王なのは言うまでもない。自分の権威を高められると思ったのか、派手に宣伝したみたいね。
今回の夜会に顔を見せていた貴族は、王都周辺の一族ばかりと聞いた。ならば、巫女の噂を知っている地方貴族は、まだ彼女の役立たずっぷりを知らない。どこかへ下げ渡してもいいのだけど、折角の戦利品だもの。ここは上手に利用して見せないと、ダメね。
「あの氷漬けの巫女は、まだ釣れそう?」
囮や餌として役立つかしら。そう尋ねる私に、テオドールは淡々と貴族の名を数名口にした。
「少なくとも、彼らは引っかかると思われます」
「巫女はシュトルンツの王都で処刑される。そう噂を流して欲しいの。それは酷い殺され方をするらしい、って付け加えてね」
「その辺りはお任せください」
テオドールの得意技だもの。情報操作も残酷な処刑法の知識も、すべて任せられるわ。酷い情報が広がるほど、貴族の動きが把握しやすくなる。それに、我が国の中で行動を起こすなら、隠れている不穏分子を動かす必要があった。
この際だから、火種になりそうな者は狩り出しておきましょう。今後の統治が楽になるわ。
「明日は出発だったわね。私も少し本を読んだら眠るわ」
夕方まで昼寝をしたので、さほど眠くはない。だけれど、不思議と眠れちゃうのよね。あふっと欠伸を隠して、本を広げた。獣人国から持ち出した、予言の書よ。初代召喚者だった異世界人の手記なの。
知らない世界の内容が書かれていた上、日本語だったから解読が大変だったでしょうね。すらすらと読み進めながら、もふもふ好きだった召喚者の話に頬を緩めた。羨ましいわ。異世界に来たら、もふもふ三昧だなんて。
狐の尻尾の毛は絶品? そういえば、テオドールが捕らえたのも狐だったわ。獣化したら、すごく立派な尻尾がモフれるんじゃないかしら。後で相談してみましょう。
予言の書のどこに巫女が出てくるのか、小説では語られなかった。ただ記載があると知っているだけ。その内容も簡単に触れらた程度。恋愛ご都合主義の物語では「恩恵をもたらす能力は巫女にないが、それでも彼女を王は愛した」と締め括られた。
めでたし、めでたし? 冗談じゃないわ。婚約者のいる男に擦り寄って、褥に入り込んだ痴女とどこが違うのよ。その上、国母の地位も奪って、義姉に当たる王女を追い出した。あり得ないわ。むっとした顔でページを捲るが、徐々に読む速度が落ちていく。
「無理、今日はもうダメ」
白いレースの栞を挟んで、ぱたんと本を閉じた。ベッドの枕の下に差し込み、枕にぼふんと頭を載せる。宿屋の天井にはないはずの天蓋は、吊るすタイプの簡易式。お昼寝の前にテオドールが持ち込んだの。
準備万端すぎるわ。目を閉じると、先ほどまで目を通していた日本語がぐるぐると回った。読み終えたら、エルフリーデに貸してあげましょう。きっと懐かしさに頬が緩むわ。
前世で読んだ小説の裏設定を暴くような、不思議な後ろめたさも感じながら……私はゆっくり深呼吸した。
「え?! あの単語って、もしかしてそういう意味?」
回る日本語の中に、思わぬ発見をした私は叫んで飛び起き、そのまま寝付けずに朝を迎えることになった。結局、全部読み終えたわ。
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