99.贅沢な休日になる予定だったの

 数量限定のチーズケーキを堪能し、宿に戻ってゆっくり休む。翌日は丸一日休みとしたので、羽を伸ばせるわ。


「お嬢様、明日のご予定はいかがなさいますか」


「寝て過ごしたいわ」


「承知いたしました。私は預けた荷物の状態を確認し、その後は隣室に控えておりますので。用がありましたらお呼びください」


「ええ、朝食はなし。お昼も適当でいいわよ。テオドールもしっかり休んで」


 ひらひらと手を振り、整えられたベッドで転がる。王族である私が動くと、その10倍以上の人が動くのよ。せっかくお母様の目が届かない土地で休めるんだもの。ダラダラしたいわ。


 年中無休で「王太女殿下」でいるのも大変だもの。あふっと欠伸をひとつ。そのまま目を閉じた。馬車に揺られるのも、意外と体力を使う。明日を、純粋で贅沢な休みとして消費すると決め、私は目を閉じた。


 お昼過ぎまで寝倒す。そう決めていたのに。早朝に起こされた。不機嫌と文句を飲み込んで、ベッドに身を起こす私は首を傾げる。


「どうしたの」


「荷を奪おうとした狐と馬を捕らえました」


 報告だけなら、私が起きてからでも良かったんじゃない? そう視線で投げかける。テオドールは申し訳なさそうに付け足した。


「馬は足を折って拘束、狐は状況的に仕方なく……瀕死の重傷です」


 つまり、捕獲に失敗したのね。影を護衛に当てたのは知ってるけど、その誰かがミスをした。まとめ役のテオドールとしては、捕虜の命をどうするか決めかねたと言ったところかしら。


 今後を考えれば、テオドールにもう少し権限を与えるべきね。毎回私に尋ねるのでは手間だし、場合によっては手遅れになるわ。


「助かるの?」


「ぎりぎりです」


「どちらの荷を狙ったか、分かる?」


 これは一番大事な質問よ。テオドールは確信を持って答えた。


「巫女です」


「分かったわ。可能な範囲で生かして」


 貴重な魔法や薬剤を使わずに助かるなら、生かしておきなさい。そう命じて、私は再びベッドに横たわる。テオドールが丁寧に上掛けを直し、カーテンを閉めたまま一礼して出ていった。


 子犬を取り返しに来たなら、切り捨てる。だけど、氷漬けを狙ったなら……後ろに誰かいるかも知れない。獣人貴族の誰か? それとも別の国家か。噂しか知らなければ、巫女が何らかの恩恵を齎すと勘違いして襲った可能性もあった。


 あれこれ考えるうちに目が冴えてしまい、上掛けを掴んで飛び起きた。苛立ち任せに枕を掴んで投げる。壁に当たって転がるのを見て、深呼吸した。


「もう……ゆっくり休めないじゃない!」


 考えが回り始めた頭は活性化して、眠気など吹き飛ばしてしまった。午後は絶対に昼寝するんだから! そう決めて私はベッドサイドに置かれた小さなベルを鳴らす。


「お嬢様? もうよろしいのですか」


 驚いたようなテオドールへ、きっちり言い渡した。


「目が覚めちゃったの。でもお昼寝はするから、用意しておいて」

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