93.待たせたな、我が妹よ
無血開城に納得しない貴族は多い。それをエレオノールは説得してみせた。王女ではなく、唯一まともな王族として。壊れた国王と怯える傷だらけの王太子、項垂れ拘束された第一騎士団。牢へ入れられた第三騎士団も含め、すべての出来事が、包み隠さず貴族の耳に入った。
「なぜ、そのような!」
「シュトルンツ国と戦っても勝ち目はないのに?!」
「国を滅ぼすおつもりか」
「暗殺など卑劣だ!」
貴族から上がった声に、私はぱちんと扇を閉じて不快だと示す。ざわつく声は、あっという間に静まった。私がこの場で最上位の認識はあるのね。
「エレオノールは、国を滅亡から救った王女よ。なぜ彼女を責めるの? 自分達に過失はないと言い切れるのかしら。ラングロワ王家が信頼できないなら、もっと早く手を打つべきだったのよ」
国際問題を引き起こす前に、シュトルンツの王太女が表敬訪問する前に。手を打つ機会は何度もあった。我が国と協定を結んだ原因も、国王の勝手な侵略じゃないの。何もしなかった者に、必死に事態を収拾した彼女を責める資格はないわ。
「知らなかったのだ」
「そうだ、我々は知らされなかった」
「……都合のいい言い分ですわね。知らなければ許される、とでも? ミモザ国は、随分甘い教育と制度を取り入れているようですけれど、我が国では通用しませんわ」
知らないことは免罪符にならない。無知は恥じるべき己の不徳よ。戦争が始まっても、知らなかったから俺は関係ないと逃げるおつもり? そんな甘い考えは通用しないわ。
謁見の間を埋める獣人の貴族をぐるりと見回し、呼び出したシュトルンツの大使に目配せする。彼も同様に数えた後、にっこりと笑った。優秀な一族は参加していないのね。泳げるネズミは沈む船を捨てた。ここで騒いでいるのは、荒波を泳ぎ切る能力がない者ばかり。
「新しい王家を興すなら、自由にすればいいわ。このままラングロワ家を担いでも構わない。ただ、我が国への亡命は認めません。働く民なら歓迎しますわ」
平民としてなら受け入れるが、貴族階級を保持したまま逃げてきたら追い返す。きっぱり処遇を口にして、私はひとつ深呼吸した。騒がしくなる広間へ、カールお兄様が到着する。
「待たせたな、我が妹よ。無事を確認していても、気が急いて仕方なかった」
「ふふっ、お兄様ったら。ちょうどいいタイミングですわ」
城外を守る第三騎士団がおらず、内部を警護する第一騎士団も機能しない。この状態なら、真っ直ぐに謁見の広間へ向かうことが出来たでしょう。カールお兄様に続いて顔を見せたのは、ツヴァンツィガー侯爵でした。
「あら、お久しぶりですわ」
「ローゼンミュラー王太女殿下、お久しぶりにございます。我が娘は役に立っておりますでしょうか」
「ええ、先日は私を庇って傷を負ったこと、まずはお詫びしますわ。ご心配を掛けたでしょう?」
「娘が王太女殿下を守るのは当然のこと、傷のひとつや二つで騒ぐ一族ではございません」
獣人の騎士や貴族と比較にならない。武人として優秀で、
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