84.裸の王様らしく踊ればいいわ

「そ、そんなはずが……巫女は予言で国を救うのではないのか? そもそも他国の王太女が、予言の書の内容を知っているはずがない! 嘘だ。その程度の虚言に惑わされるわしではないぞ」


 政治的な意味で騙しにかかったのはお前だろう。分かりやすい方へ流れるのは、この男だからか。種族的な特徴か。にっこり笑った私は、現実を突きつけてやることにした。


「では、試してご覧になるといいわ。あの巫女は何も救えないし、特別な能力も持たない。異世界から来た少女という価値しかありませんわ」


 先ほど無礼を働いて連れ去られた巫女を呼ぶよう、国王が命じる。あら、どうあっても自分が正しいと主張するのね。私の前で真実を明らかにしたら、もう引っ込みはつかないのよ? 他国の王族である私に失態を握られるし、自国の民に対して「巫女は本物だった」と嘘をついて都合よく操ることも不可能になる。


 あまりに愚かな選択に呆れ、ゆるゆると首を横に振った。


「ひどいですわね」


「ええ、本当に」


 エルフリーデとの間で暗号のように短い言葉が交わされる。私に対して「物語の時は気になりませんでしたが、現実になるとひどいですね」と語った彼女。私はそれに対して「ええ、本当に。現実は残酷なものよ」と返した。


 この愚かな国王が頂点に立ち、国が成り立っているなら……支えてきた者がいるはず。おそらく亡き王妃でしょうね。彼女の組み上げた組織が、愚王を王たらしめる。有能な大臣や貴族を配置し、王の足りなさを補った。


 王妃亡き後、その仕組みを維持してきたのがエレオノールだと思うわ。恋愛小説「異世界ならもふもふ堪能しなくちゃね!」はWEB版と、発行された書籍の結末が違うの。WEB連載では、悪役王女は嫌がらせがバレて追放され、その後暗殺された。書籍では娼館送りだったかしら。


 そもそも王女が、異世界から来た小娘に婚約者を奪われる事態が、異常なのよ。貴族なら政略結婚や血筋を保つ意義を理解できる。なのに誰も反対しなかった。それだけ巫女の存在感が大きかったのかと読み返すも、何ら功績を残していない。いるだけで恩恵をもたらす聖女系のスキルもなかった。


 ただただ、ご都合主義で異世界の少女が姫様扱いされて幸せになるシンデレラストーリー。王侯貴族が存在する現実で、そんなことあり得ないの。王女はその血筋に価値があり、またエレオノール自身も賢く利用価値が高いわ。まだ未熟だけれど、鍛えたら十分使える。


 そんな王女を追放したら、国の根底を覆されるわよ。未来の王妃が決まっていた王女なら、王城の抜け道も知っている。国の防衛関係の知識や部隊の配置、下手すれば財政関係に至るまで。クーデターのお神輿にぴったりじゃない。


 追放で他国に情報が漏洩したり、娼館送りで王家の血筋が流出するなんて、もっと一大事ね。娼館で子が生まれたら、その子は王位継承権を持たなくとも火種になる。そこまで落とされる程の重罪なら、毒杯を賜るのが一般的だった。


 もし彼女が情報をシュトルンツに持ち込んだら、攻め込んで3日もあれば城まで落とすでしょう。だって、部隊の強さも配置も弱点も、すべてエレオノールが知ってるんだもの。だから教えてあげない。私が彼女を得るのに障害になることは、黙っているのが吉よ。


「巫女が何も出来なければ、国王陛下の許可がなくてもエレオノール王女は頂きますわ」


 その意味を正確に理解したのは、国王以外の全員ね。裸の王様なら、それらしく踊って笑われるといいわ。

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