78.反撃開始「やっておしまい」
「何をなさるのか!」
「国際問題になりますぞ」
言外に戦争を起こしたいのかと叫ぶ騎士達へ、私は微笑んで小首を傾げた。
「妙なことを言うわね。あなた達、本物の近衛騎士ではないでしょう? 偽者にそのような指摘を許すほど、私は寛大でいられないわ」
テオドールは右手に短剣、左手に投げナイフを持つ。低く構えた姿は、実戦に特化した暗殺者らしい不気味さを漂わせた。カールお兄様も抜剣し、綺麗な王道の構えを見せる。エルフリーデは精霊に助力を願ったらしく、細いレイピアに似た剣に多くの光が集っていた。
私を守る者は3人、これなら突破できると考えるのは愚かよ。大国の王太女が、僅か3人の護衛しかいない状況で牙を剥く。その理由に気付く有能さを、彼らに求めるのは酷だった。
一騎当千とまで言わないけれど、彼や彼女らの能力はこの場に駆け付けた10人ほどを相手取って引けを取らない。圧倒する実力者ばかりだった。
「我らを侮辱なさるのか!」
「だって、その胸の徽章は第三騎士団の物だわ。近衛は第一騎士団の役目で、徽章の線が1本なの。他国の王族だから知らないとでも思ったの?」
第三騎士団は王城内で抜剣を許されていない。城門の外でのみ戦うことを許された部隊だった。彼らがここに駆け付けるのに掛かった5分は、もしかしたら本物の第一騎士団と入れ替わる時間だったのかしら。
第一騎士団は王族や他国の貴賓に接するため、貴族出身者で占められる。実力重視の騎士団から見たら、お飾りに等しい実力だわ。それは我が国も似たようなものね。
当然といえば当然の結果だった。王侯貴族と接するには、貴族の礼儀作法が求められる。付け焼き刃で通用するはずがないから、貴族生まれで礼儀が身についた者を選ぶのよ。実力はそこそこで構わなかった。
城内に入るまでに敵を排除するのが、他の騎士団の仕事なのだから。いくつもの関門をすり抜けた強者が入り込めば、そこからは隠密や影と呼ばれる各国の強者が相手をする。近衛騎士は無作法なく賓客の相手をするのが役割だった。
つまり、こうして他国の王族に口答えしている時点で、彼らが近衛騎士じゃないことは確定なの。私は他国の王族で、次期女王という存在。万が一にも傷つけられたら、国の威信に関わるわ。戦争の原因にもなりかねない。この程度の連中を、護衛に付けるはずがなかった。
「私から行くぞ」
勢いよく兄が飛び出す。エルフリーデが瞬くが、続かなくていいと合図を送った。構えた剣は行儀のいい剣筋で、さっと避けられてしまう。ここからがカールお兄様の実力発揮ね。
「おりゃぁ!」
王子とは思えない掛け声で、過度な装飾が施された剣を払う。突然向きを変えた軌道に対応できず、一人が腹に受けて転がった。
「鎧を着てると感覚が狂うぞ。全力で向かってこい」
王子としての仮面を外し、翻るマントを放り捨てた。そのマントの影から、テオドールが敵をナイフの餌食にしていく。投げられたナイフが腕に刺さった獣人が一人脱落した。
「貴様らぁ!!」
テオドールに手を切られた男が憤慨し、叫びながら剣を抜く。が、完全に鞘を払う前にカールお兄様に蹴飛ばされた。転がった男の肩に遠慮なく、剣先が刺さる。痛みに叫んだ男を踏みながら剣を抜いたお兄様は、返り血に汚れた剣を袖で拭った。
「本気で来い」
反撃開始ね。一度言ってみたかったの。
「やっておしまい!」
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