第95話 悪い相談

 ロートは自室で部下の報告を受けていた。


「例のフリンザ領の者たちが町に着いてから一週間経ちます。やはり何も起こらないようですね」

「ふん、たかが小娘と小僧ではないか。所詮は蛮族だ。我らの恐ろしさを知ればすぐに尻尾を振るだろうさ」

「しかし、あの者たちは不思議な術を使います。お気をつけください」

「馬鹿を言うでない。あんなもの魔法ではないわ。しかし住民どもの下町で食事を振舞うなどと言う行動に出たのかわからんな。そもそも材料はどこにあったのだ? わからんことだらけだ」

「はい、下町の住民どもが食料をため込んでいた物かと思われます。それをなぜかフリンザ領の者たちに」

「うーむ。それよりも、あの者たちにこれ以上手出しするなと言ってこい。我々に逆らえばどうなるか教えてやれ」

「わかりました。そのように伝えてきましょう」

 報告に来た男は部屋を出ていった。


(ふっ、愚か者め)


 ロートは心の中でほくそ笑む。

 部下の男の心配はもっともだが、ロートは確信していた。


(下町の住民どもの事などどうでもよいが変に私の施政を追及されても困る。ここは仕方ない、手を打つか)


 ロートはそう考えるとすぐに立ち上がり、部屋を出る。そしてこの街の裏のドン、デズモオに面会を求めた。

 彼は裏社会を取り仕切っており、表向き商会ギルドの役員も務め発言力が強い。

 商会ギルドにはあまり顔を出さないが、ロートとは仲が良くお互いの腹の中を見せ合う間柄だ。

 ロートとデズモオは応接室に入り向かい合って座る。

 しばらく世間話をした後、ロートが切り出した。


「デズモオ、折り入ってお願いがあるのだ。聞いてくれ?」

「ほう、お前さんからの頼み事とあれば聞かないわけにはいかないな。どうしたんだ?」

「実はな……」

 ロートはデズモオに今までの経緯を話した。


「うーん、なるほど。確かに怪しい動きをしてるのは事実だな、このままでは他の者たちも黙っちゃいないと思う? それにしても、あんたもなかなか大胆な事を考えたもんだ。普通ならそんな事はしないんだが」

「で、どうなのだ。やってくれるか?」

「そうだな、あんたが俺に貸しを作れるチャンスだ、引き受けてもいいぜ」

「借りだと? ふん、どういうことだ?」

 ロートは眉間にシワを寄せながら言う。


「フリンザ領からの荷は欲しい。だがフリンザの奴らの利益にはしたくない。そういう事だろ?」

「ふん、あけすけに言うとそうなるな」

「だったら簡単だ。奴らの荷をどこかの盗賊が奪い、どこか別の場所で取れた荷がたまたまこの街にやって来た。それでいいんだろう?」

「ふむ、悪くない。だがどうやって盗ませるのだ? 奴らはかなり厳重に警備しているぞ」

「それについては問題ない。俺たちに任せてくれればいい。あんたはただ指示を出すだけでいい。あとはうまくやるさ」

「わかった。デズモオ、貴殿を信じよう」

「ああ、任せときな。必ずや期待に応えようじゃないか」

 そう言って二人は握手を交わし、商談が成立した。

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