第76話 まかせた!

 さて、夕食だけど、久しぶりに帰って来たし、部屋に行く前に厨によってみるかな。カーゴさんに挨拶したいし。私はそう思い立つと、アンドリューと一緒に厨房へと向かった。そして中に入ると、そこにはたくさんの料理人さん達がいた。

 彼らは突然現れた私たちを見て驚くと、すぐに姿勢を正して頭を深く下げてきた。


 なんでこんなに人がいるの???

 あ、デレク!

 あんた戻ってきてすぐここに逃げ込んでたな

 まったくもう……

 

 私が呆れていると、奥の方から一人の男がこちらに向かってきた。

 彼はカーゴさんの部下のデレクだ。今まで一緒に旅してたんだからそんな顔して近づかなくてもいいのに。

 彼は私の姿を見ると、嬉しそうな顔で駆け寄ってくる。

 相変わらずイケメンだなあ。


 でも…… 今は……

 ちょっと……

 うわあぁああああああああああああ


「助けてください!! シャーナ様!! 知らない間に弟弟子がこんなに増えてるんですよ!!! カーゴ師匠どこ??!!」


 いや知らんし

 てかあんたどっしり構えときなさいよ


「で? 私もカーゴさんに会いに来たんだけど、なんなのこの人数?」

「それが我々が旅に出てる間、この領の状況を知った他領の方たちが押し寄せたらしいんですよ」

「え? なんで?」

「レオシュ様が他領でおいしい料理を広めてしまったらしいんです。噂が噂を呼んでってことらしいです」


 まじか

 レオシュ様、確かこの件はバレないようにって言ってなかったっけ??

 まあいいか

 なんか考えがあるんだろう


 それよりもカーゴさんだ 。どこに行ったんだろう?

 と思ってたら帰ってきた。


 おーっす!

 おらシャーナ!!


 あ、そうだ。カーゴさんには言っとかないと。私はカーゴさんのところまで行くと、彼に声をかけた。すると彼は私の方を向いて目を見開く。


 あれ?

 どうかしたんだろうか?

 なんだか驚いた顔をしているけど……。

 

「どうしました?」


 と聞くと、カーゴさんはすぐに笑顔になった。


「いや、なんでもねえ。それよりお嬢、無事のお戻り何よりだ」

「はい、ありがとうございます。ところでカーゴさんにお願いがあるのですが……」

「なんだ?」

「実はこれから夕食の時間なのですが、そこで私の作った料理を食べてもらいたいと思いまして。厨房をお借りしてもよろしいでしょうか?」


 私がそう言うと、カーゴさんだけでなく料理人たちもざわついた。

 

 え?

 なに?

 何か変なこと言ったかな?


 私が首を傾げていると、カーゴさんが口を開いた。

 その表情はとても真剣なもので、思わず背筋を伸ばしてしまう。

 一体何を言われるのか……。

 緊張しながら彼の言葉を待つ。

 そして彼が放った一言は意外なものだった。


「……まかせた!」


 うん?

 え?

 それだけ??


 私は拍子抜けしてしまった。

 もっとすごいこと言われると思ったのに……。

 しかしカーゴさんの言葉を聞いた周りの料理人たちは慌ただしく動き始めた。

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