2030. The End.

 娘達河合芳美と藤原睡蓮の誕生に伴い、私薫と菖蒲は家庭に入るものと誰もがうっすら思っていたが、私法人第二営業部部長河合薫と法人第二営業部教育課課長藤原菖蒲の仕事捌きがなければ、純桜コーポレートは滞る事は、やはり誰も目にも一目瞭然だった。

 ここも仕組みの一つだ。懐妊した時に人事権を発動して、管理職部門に寄せるべきだったが、敢えてしなかった。純桜コーポレートは若手エースを支えて、さらに発展する社風なので替えが効かないとを倣った。

 それでは、仕事と家庭の両立はになったが、何の事は無い。名士の家族故に乳母制は現代も成立しており、私達は、何れ実家に帰る目的で借りていたマンションを引き上げ、家族と同居する事になった。そして発動する。

 河合家藤原家、この同日に実家に戻る数週間前から、疾風先生には沖縄自由旅行に行かせ、淳一郎さんには転勤のどうしても多い名古屋の大手自動車メーカーから純桜コーポレート系列の自動車ディーラーの部長職へと引き抜かせ東海地方の挨拶周り出張の仕儀になった。この静まったタイミングで、私薫と菖蒲のそれぞれの娘達を交換させた。菖蒲は私に珍しくも。

「薫、これは出来ないわ、私は母親で、私達は掛け替えのない家族よ」

「それでも、父親は疾風先生でしょう。菖蒲よくお聞きなさい。いこれから芳美になる睡蓮ちゃんは、きっと疾風先生の一閃の太刀で描く様な、線画を描いて、きっと日本の至宝になるわ。その為にも、疾風先生の側において覚醒した方が良いの。菖蒲には、淳一郎さんの美形と私の容姿を引き継ぐ生涯美女の誉れのある、睡蓮ちゃんになる芳美を献上するから、健やかに育ててね」

「こんな托卵のし合い許される事なの、これは断れないことなの」

「過ちは、どうかで帳消しにしないといけない。そうでは無いのよ。これはごく自然の成り行きで、私の切ないお話を聞いたら、それこそ一番の結果と納得するわ」

 菖蒲はいつもの根負けした顔に戻り、その代わり私とは生涯のお付き合いで、実の娘を見守るわよと啖呵を切った。勿論大歓迎よと私は綻び、和解のハグをし合った。


 その後、それぞれの実家に戻るも、親族及び乳母からは何の違和感もなく、芳美と睡蓮は受け入れられた。二人は2ヶ月半の間は空くも、後生まれの私薫の娘は私に似て生育は強いも、菖蒲の娘は早産と母親に似た丸顔で、実のところ運命なのか容姿に相違は感じられなかった。

 ただ河合家一門で純桜コーポレートお局の出渕安能さんが、あまりの溺愛ぶりに、もう乳は出ないのに芳美に吸わせたら、はたと困惑した。

「薫、疾風先生を愛しているのは分かるけど、こう言う事は犯罪よ。前の芳美は芳醇な香りがしていたけど、今の芳美は茶葉の香りがするわ。前の芳美が死んでも、皆、受け入れてくれるから。今の芳美を御両親に返しなさい」

 私はいつか誰かが当てるとは思ってはぐらかせる筈だったが、安能さんが身を張って当てると思わなかったので、正直に経緯と思惑を切実に話した。全て頷いてくれた。但し勢い良く右頬を張られてた。左頬はいつかの本当の芳美が張ると思ってるから、待ってなさいよときつく言われた。


 安能さんに発覚した日より、入れ違えた事は一度もバレずに、私達は子育て大変な親子として、両家を行き来した。子供がまず環境に馴染むのか、私達は丁寧に、芳美は睡蓮、睡蓮は芳美として育てた。不意に太陽の光を浴びる、私の半分の血を持つ睡蓮は見ては、幸せで何よりと複雑な表情より安堵の表情になった。疾風先生はそれを見てか、人目を憚らず見せつける様に後ろからきつく抱きしめ、二人目も良いよなと、私達は深く頷いた。そしていつの間にか私の両足に、右足には芳美、左足が睡蓮が吸い付いて離れなかった。私はこの二人の離れていても親だと深く知ると、どうしても頬を濡らすしか無かった。それは見ている菖蒲も頬を拭っていた。


 そして芳美と睡蓮は、敢えて原野の津市の市立小学校に仲良く通った。小学3年生のこの頃には河合家も藤原家も二人目は出来ると思っていたが、音沙汰は無かった。私薫と菖蒲は決闘雰囲気でいざ討論に入った。二人だけの秘密で複雑な家庭事情は有るとしても。

「菖蒲、そこ迄牽制しなくて良いのよ」

「薫も最初の方こそ思いは巡れど、そう、そこは一度は過るけど次の子も欲しいのよ。切実よ、成り行きだけど、淳一郎さん凄い優しいもの」

「ふあ熱いわね。それこそ私には疾風先生がいて、長身の身体に吸い込まれて、ああそれでもうちは週一回よね」

「うちもそんなペース。でも凄い淳一郎さんのは逞しくて濃いのよ」

「そう、それ知ってる」

「薫、ここ蒸し返さなくて良いから、流しなさいよ」

「これはどうしても回数の問題よね」

「週三回はどうかしら」

「もはやそんな刺激はね。疾風先生一回で終わりなのに、立て続け、いや中一日だと、半生になっちゃう可能性有るわ」

「スワッピングパーティーはどうかしら。ああでも津市立小学校に通わせてるから、市井の夫婦はどうしても口が軽いわよ」

「菖蒲も心根は大胆よね。それだったら、クラウディア女子学院の御学友は、いや天罰下るわよで、ベッドより、まず礼拝堂行きよね」

「SNSなら後腐れ無いわよ。ああでも薫は、やり手事業家として、東海地方の経済記事に載ってるから、ここ深く謝るわ」

「それもそうだけど、流行病いつ無くなるのかしらね」

 各々健闘を祈る敬礼で終えた。

 果たして、その夜から熟そうかの美体に火は着き励むものの、一週間丁度で聖書を閉じる如く、いつもの生活も戻った。共に何が悪い訳でもなく、私達が前触れも無く豹変したのが、そのう、新しい生命を生み出そうとする男性の身体には成りきれず、警戒したかと結論に落ち着く。

 それならば、もっと燃え上がらせる身体になるべきと、共に美体を更に磨くべく、画期的な結論が出た。3P。3PLAY。女性2人にゲスト1人だったら、口が必ずや固く閉ざされる、未来志向の完全犯罪だ。私薫と菖蒲のキーワードは3Pで、SNSのやりとりはあの方この方との3Pはどうかしらの想いが溢れ、それだけで失いつつ合った腰のなだらかさが帰ってきた。ただ、残念ながら実現には至って無い。


 ただ、その3Pは用意周到な計画があって、漸く機会が巡って来た。なんちゃってイケイケの20代の頃だったら、最後の最後で躊躇しただろうが、何せ火が着いてるのは、心の下の身体の芯なので消しようも無い。

 標的は、純桜コーポレート本社各階に訪れる、大手皐月運輸集荷員の神城拓也さんだ。拓也さんは芳美と睡蓮の同級生神城勇月君のシングルファザーで有り、父母会で皐月運輸の仕事着のまま見つける程に、私薫と菖蒲は自ずと腰が下がり、とても良い感じと思わず唸ってしまった。私達は基本ギャップ萌に即座に反応する為、その眼鏡の下の目元涼やかな面影美少年に歓喜し、職権乱用を行使し皐月運輸に配送先機密情報が有るので、顔見知りの神城拓也さんをよこす様に直指名した。日々、拓也さんの集荷の時間になると、私達は総務課に集合し、腰が引けたままその面影に萌えた、いや身体の芯が燃え充足した日々を迎えた。

 日々、このおやつは、察してくれる労いの言葉は、肝心のお誘いは、ピークは白浜の父兄キャンプの野外3Pか。残念ながら白浜の父兄キャンプには、旦那連中がたまたま空いていた為、実現叶わずだった。ただバーキューの配食で距離がゼロレスに近づく程に、私薫も菖蒲も、その美形は本物と確信した。


 そして満を辞しての立案最後、足掛け1年掛かりでそれはやって来た。芳美と睡蓮の小学校卒業に伴い、謝恩会を全力で老舗の鳥羽クリアランスホテルで開催した。これは日々、会計係の私達が父兄会の協力金をオンライン信託で切った貼ったの果てに、紛争勃発景気を起こしては持ち金が軽く50倍を超えたのが何よりだ。まず平和でしょうもその祈念は3Pの後で結託した。これで6年生父兄会は、夜景が綺麗な鳥羽クリアランスホテルでの豪華泊まり掛け謝恩会が盛大に行われ、ビンゴ大会の賞品も持ち寄られた。

 私薫と菖蒲は、エンタテイメントの演劇部出身なので、謝恩会のプログラムはただ右肩上がりに盛り上がり、座という座の笑いは大いに奪った。そんな中でも面影美少年の神城拓也さんは笑いの末に、涼やかな眼鏡を下ろし、純朴な素顔を晒し、同席の私薫と菖蒲はテーブルの下でガッツポーズに打ち震えた。

 伊勢湾の夜景を見下ろせる謝恩会は、本来の尺よりはるかに長い7時間を設定している。これは当然、証拠を隠す為の酔い潰し作戦だ。多くはその為の宿泊と察しては、千鳥足で各自の部屋に戻りプログラム最後半ともなると。全席は1/4、いや酔いつぶれて寝ている方を含めたら、その半分の1/8と談笑に花が咲く。もっともこちらとしては拓也さんを酔いつぶそうとして、お酌の限りを尽くすが一向に潰れない。うわばみかと舌打ちをするも、いざお開きで立ち上がろうと瞬間に拓也さんがよろけたので発作的に、私薫と菖蒲はその両脇に入って支えた。そこまで無表情なら早く察するべきだった。いや、これこそロマンス3Pの入り口かと、身体はただ火照り、裏腹の言葉で、もう拓也さんは危なっかしいの声掛けしながら、最上階の声の漏れないスイートに連れ込んだ。

 果たして、拓也さんを剥ぎ取り、私薫と菖蒲ももそそくさとスリップだけを残して脱ぎ去るも。そのう、ベッドに二人並べられて、律儀に1対1の性行に至り終えると、補給しながら、また律儀に1対1の性行に至った。それは3セット続ける丁寧さだったが、とうとう3Pは如何ですかは言えずに、朝を迎え、私達は3Pを願い続けて自ずと磨かれた美体で朝日を受け止めた。

「菖蒲、これはこれよ」

「逆に一晩に3回なんて、素敵よ」

「実際は6回だけど」

「何か不吉な数字ね」

「それじゃあ、」

「そういう事で」

 そのままの美体で、ぐっすり眠った拓也さんの、顔と腰に跨がり、辛うじて朝立ちした男性自身に有り付くも、その冷静な激しさが無ければ何してるのかなになった。あれだけ望んだ3Pだったのにこれがとはだった。たまに苛立って拓也さんの頰をピタンピタンするも熟睡の彼方で、モーニングの時間ですよの一言を放つと、条件反射で拓也さんは起きて。慇懃にも御婦人方に御無礼しました。いえいえ成り行きも袖振り合う縁ですよと、何を綺麗事言うか私だった。その後津市へのシャトルバスで、皆と昨日の謝恩会盛り上がりましたねの談笑に、何事もなかった様に爆笑しながら合わせた。


 果たして、夢に夢をそしていざも夢だった3Pで、私薫と菖蒲は新たな一週間を引きずり、その週末には名古屋の繁華街のグランドバーに出張って、3P反省会その内容に泥酔した。栄でどうやら何かを喚いていたと名古屋-津の長距離タクシー運転手は言うが、何をと聞くと顔が強張り真一文字に結ばれたままだった。


 その翌週月曜の純桜コーポレートの朝一番出勤の筈が、既に困り切っている菖蒲と、後発の筈の出渕安能さんが鬼の形相で、静かに御出でなさいと手荒く手招いた。まずこれと見せたのは、SNSのサマリーにされた戦慄する投稿動画だった。

 夜で顔は朧も、3P失敗、3P大失敗、3Pドリームカモン、3Pフォーエバー等々、やや裏暗い栄の路上で、もう何処かのおばさんに準じた、私薫と菖蒲のはだけた姿があった。極めつきは消火栓を挟んで私薫と菖蒲が腰をグラインドさせながら、お日様が出ている内には決して言えない言葉を発していた。私は堪らず、アウト若しくはセーフかと安能さんに尋ねた。クローラーで集めた動画上では顔が見えないからセーフ。ただと正に徴収された菖蒲のSNSの履歴をスクロールしたら、いい大人が毎日毎日3Pなんて、いい加減にしなさい、と大声で怒られた。私薫と菖蒲はビクッと背筋を伸ばし、身体の芯の火照りが残らず消えた。そう、今日津の桜の早咲きの頃に、先に私達の花の方が虚しく散った。まず普通の女性に落ち着きます。The End.

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