TWIN × TWIN
判家悠久
2018. Deviousness.
私薫と菖蒲は、三重県津市の中高大一貫校のクラウディア女子学院からの友人になる。
私の河合家は明治維新から商いで勃興して、純桜屋から、現在は幅広い交易商品を取り扱う純桜コーポレートへと、時代に適応した今も地元名士に当たる。
私は主家河合家の一人娘に当たる。ただ早くも小学生時代で勉強も習い事も頭打ちになった事から行く末を案じられた。そこで適切な鈴の御学友として、格式のある東海の藤原家から菖蒲が添えられ、女子の絢爛たるクラウディア女子学院の中等部から合流した。
菖蒲とは、ただ気が合った。私のおっとりと急かしの相反する性格に、よくも根気強く付き合ってくれて、それも今日に至るのは感謝しか無い。
クラウディア女子学院は男女交際の縛りは無いもの、はしたないものは何かと除名されて行った。ここで女子校にありがちな男子交際経験は無しかになるかだったが、演劇部繋がりから、中等部高等部大学で浅い付き合いの男子友人は出来た。もっともここは、菖蒲のきつい監視があったので、純情そのままに青春を謳歌した。
就職は自ずと、実家の純桜コーポレートに勤めて、今更都市圏に出てもの菖蒲の友情で、日々の総合職を叱咤激励しあった。
まあ社会に出ると、悪いお誘いはどうしても有り。大事に至る前に菖蒲が配慮して、格式の高いお茶会を催しては、容赦無く弾いて行く。ここで合格した男性は、90年代風に言うと、アッシー君・メッシー君・ツナグ君に分類され、ミツグ君は今更名士に何を貢ぐかで有り得なかった。
そこから大人の青春を、週末に名古屋に出張っては謳歌した。このまま河合家の決められた相手を待つ日になったが、一人生とはままレールに乗らないものらしい。
2015年春。純桜屋創業記念展覧会で、気鋭の日本画家曽我部疾風の総合個展が開かれる事になった。本来ならば家老の取締役が幹事を務めるのだが、市内の諸学校のデジタル教材強化に傾き、折衝事が多々で、いっそ私河合薫と藤原菖蒲任して見ようかになった。ここがただ因縁めいた事に発展する。
疾風先生は、曽我部疾風総合個展四季のタイトルで在り来たりも説得。ギャラリー本格稼働する伊勢志摩倉庫開催展示は実験台にするなも説得。図録は丸投げも物語性が薄いも大判ならばこれしかないと説得。期間中サイン会お願いしますもタレントでは無いも説き伏せる。
かなり扱いが面倒臭いが、そのセミロングの容姿の野生さと知性に打たれ一回り上の先生と思えず、図らずも惹かれ、私はどうしても頷き役になってしまった。その為全般の交渉一切は菖蒲となり、疾風先生と日々、大声で怒鳴り合いになった。革新を求める疾風先生に、伝統を重んじる菖蒲では、それはそうにもなるが、変遷はあれど曽我部疾風総合個展四季は、東海のみならず、関西と首都圏からも訪れて大成功に終わった。大成功は気まぐれなアイコンの疾風先生が常駐していた事が大きい。その理由は分かっている、疾風先生と菖蒲が惹かれ一線を超えたからだ。私は激しく嫉妬した。
曽我部疾風総合個展四季は無事閉幕し、初めて心に着いた嫉妬の炎は消せるものでは無かった。疾風先生に会いたい、そして側にいたいと願い、両親には切実に個展の企画書を上げたが、希少であるから気鋭だと。今暫し寝かせなさいにした。それならば、疾風先生と結婚したいと、勇気を持って切り出した。疾風先生と菖蒲は出来上がっているが、そんな事は当事者以外誰も知らない。
ただ、半ストを決行したお陰で、それならばと両親が漸く折れて、縁談の運びになった。お嬢様の我儘かも、主家河合家の次期当主は頂上私一人なので、生涯独身宣言を繰り出したら、御家存続が掛かっていたら天秤は自ずと傾く。
縁談は思いの外順調に進んだ。疾風先生の婿入りはそう言う時代でも無いし、日本画も自由に継続してくれに、薫さんの佇まいも美しいとで断る理由が有りませんと。総合90点の合格点を貰った。
後の10点減点は、菖蒲への恋慕があるのは分かっていた。私はここもごねまくった。私が疾風先生を取り上げたのに、菖蒲は生涯の学友で接してくれる。私は然るべき順序を通して、菖蒲に縁談を持ちかけた。お相手は大学時代からベントレーで根気強く連れ添ってくれたアッシー君辰宮淳一郎さんで、家系も華族に準じて、藤原家に何ら遜色は無かった。
そして、こんな目出度いのならば、合同結婚式にしましょうだった。形式的に縁談であるものの、見初めと長い連れ添いもあって、皆が幸せになった筈だった。
2017年冬、藤原家で懐妊があった。藤原家も菖蒲が長女一人だけなので待望の一子に沸きに沸いた。ただ私は何となく分かっていた。
ある日の菖蒲の借り上げマンションで丁寧に話を進めた。実はそのお腹の子供は疾風先生の子よねと、一際優しく導いた。菖蒲は咽びながら2枚のDNA親子鑑定書を差し出した。淳一郎さんのDNA親子鑑定書は否定。疾風先生のとのDNA親子鑑定書は正当。直感で分かっていたので何故は出なかった。二人に見せたかは、菖蒲は泣きながら見せられないと泣き伏した。私はこの刹那に人生設計図を書き上げた。私は良いのよ、気にしないで正直にお話してくれと気丈に振る舞うも、帰り道はただ悔しく泣き通しだった。
疾風先生は一回り上とあって、男性盛りをやや下がっている。ここの日々は、回数より精度の問題と絞っては、河合家一門で純桜コーポレートお局の出渕安能さんの、男性とはレクチャーで順調に営んでいたつもりだった。今となっては枠にはめてしまったと後悔はしている。その反動が、菖蒲との情交になるのは無理も無い事だろう。そして私は私なりの強い一手を始めた。
菖蒲のDNA親子鑑定書を自らスキャンし、淳一郎さんを正当、疾風先生を否定にした。菖蒲は躊躇ったが、法的根拠は一斉無いDNA親子鑑定書を書き換えて何が悪いの、これで丸く収まるでしょうと落とし込んだ。
菖蒲がDNA親子鑑定書を見せた、その際の淳一郎さんはと疾風先生の反応はやはり性格そのままだったらしい。
「元恋人はうっすら知っていた。若くして俺達結ばれたから、そう言う心が揺らぐ時もあるさ。何より俺達の子供をありがとう」抱き合い二人とも涙したが、菖蒲は別の涙で真実を堪えた。
「俺は若い時荒れてたから、もう結婚とか、子供とかは無理で、若くして死ぬ覚悟は出来ていた。自然の成り行きで、薫と結婚したが、子供は菖蒲かで、心は高ぶったさ。まだ生きて良いのかって。不倫させてあれだけど、この夢は大切に取っておく」その時あの疾風先生は泣いたらしい、菖蒲は堪えるのが必死で頷く事しか出来なかったと。
菖蒲と疾風先生は、分かってはいたが多分切れない縁と悟った。ただ私はそこ迄一切寛容では無い。
私は知らぬ存ぜぬで、疾風先生の菖蒲との実子を咎める事無く、瞬く間に疾風先生に半年間の南米取材旅行を段取りし、総支援するから頑張ってとその気させ、南米自由旅行に送り出した。
その直後に私は何食わぬ顔で淳一郎さんに仕掛けた。懐妊おめでとうと、今迄アッシー君有難うと。今は藤原家の婿養子に入った藤原淳一郎さんをホテルのバーで労った。私を本当は心から慕っていた事を知ってて媚を売り尽くして、そう言う御自由の雰囲気に誘った。そして最上階のキーを渡しては、ただ男性に優しいテクニックで、夥しい回数の逢瀬を都合1週間通した。そしてその後、私は淳一郎さんしかいない子供を懐妊した。身体の空いた期間は1週間しか無いも直感の通りだった。
この事情有りきの懐妊を真っ先に菖蒲に話した。私達って、どうしても付き合いが長いと好きな相手が似てしまうものよね。愛される事に応えるのも深い愛情なんて、私達は本当若いものよね。これでノーサイドね、これからもずっと仲良しでいてくれわよねと、菖蒲をいつもの様に押し切った。ただ菖蒲も常識人そのものだから、との次の手も打ってる。
疾風先生には敢えて、リオデジャネイロのホテルに、懐妊の電報を打った。疾風先生は珍しく海外から電話してきては、本当か、本当なのか、と無言になっては、電話の向こうで咽んでいた。私も貰い泣きしたが、そこには菖蒲の事がちらついて、必死にトーンを抑えるのがやっとだった。
疾風先生は、程なく帰国して、真っ先に私のお腹に触れ、おめでとうと言ってくれた。ここしか無いタイミングで私は泣き叫んだ。ごめんなさいと。菖蒲が口を滑らす前に、私自ら淳一郎さんとの情事を話して、お腹の子はどちらか分からなくなったと、ここは有り体のままに話した。
そこから、菖蒲の様に、疾風先生と淳一郎さんにDNA親子鑑定書の為の検体を求め、果たして子供は淳一郎さんの子供と判明した。ただ、その法的根拠は一斉無いDNA親子鑑定書を、慣れた手法で書き換えて、疾風先生を正当、淳一郎さんを否定にした。疾風先生と淳一郎さんはこうと。
「若ければ、迷いも有るさ。そんな事を察する事も出来なくて、南米自由旅行に出る俺は酷い奴過ぎる。薫、これからはもっと大切にする」そこからはただ長く背中を抱きしめられて、疾風先生をただ選んで良かったと心底思った。
「いや、多分良かったと思います。薫さんのと疾風先生と思いの深さがあればこその、懐妊で、なんちゃっての俺なんて入る余地は無かったのです。でも、これから先何でも申し付けてください。張り切ってアッシー君頑張りますからと」何と言うべきか、純粋過ぎる男性を目の当たりにして、堪らず叱責しようかになった。そこは内緒の右首筋に口付けをしては、照れる振りをして目を逸らした。
これで疾風先生と淳一郎さんは当事者たるW不倫で然るべき場所に収まったと安堵はしている。だが私薫と菖蒲にも深く覚え有りで、生涯口に出来ない、複雑に交差した妊娠となった。これならば、もう菖蒲は一切上書きのしようもないだろう。常識人の弱点は、非常識人はいないだろうの思い込みだ。
そして2018年初秋、菖蒲は女の子を産んだ。その2ヶ月半遅れで私も女の子を産んだ。共に名士家で親類縁者に知り合いは幸せに包まれた。ただ私の真の目的は、もう少し先にあった。
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