第6話 誕生日と大賢者
〔デイ・ノルド王国〕首都 〔ハルマ―〕王城内
僕は、今日とある人物に会う為に、父上、母上たち、姉上と共に王城内を進んでいた。今日は、朝に侍医の先生の診察を受け、病後の状態を確認してもらった。侍医の先生からは、「回復しており、問題なし。」との太鼓判が押された。そして、四日ぶりに家族皆と朝食を食べることができた。
その席で、父上から病気からの回復と報告と元気な姿をとある人物たちに見せるので、皆でその場所に行こうと話があり、朝食の終了後、この場所に向かっているのである。
僕と姉上は、手を繋ぎながら廊下を父上の後について歩いて行きながら、王城の中の物を見ていた。
「姉上、こっちの壁は白と金色に輝いているね。」
「そうね、綺麗だけどまぶしい位だね。」
僕たちは、普段は後宮から出ることは無く、王城の中を歩いたことは、ほとんどない。そのため非常に珍しい物を見ている気分である。ちなみに後宮の方は、豪華絢爛とは反対で質実剛健と言ったところだと、父上が言っていた。
しばらく歩いていると、廊下の色が変わっていた。白い石から黒い石へと。何でだろうと目線を上げると、そこには何枚もの絵画が、豪華な額縁に収められて、廊下の両側に飾られている場所に来ていた。
「父上、この廊下はなんて所ですか?」
「うん、エギル。なぜここが特別なところだと分かる?」
父上は、僕が質問をしたのに何故か、質問で返してきました。
「えっ、え~と。」
僕は、この廊下が特別な理由を考えました。廊下の石を見、柱を見、壁に掲げられた何枚もの人物が描かれている絵画を、さらに廊下の先を見て。そして、気づいたのです、ここにある一枚の絵を見て。
僕は、それを父上に言いました。
「お爺様の絵が飾られているだけど、父上の絵が無いから、ここ廊下は、特別な場所です。」
僕がそう言うと、父上はにっこりと笑い、僕の目線の高さまでしゃがみ、頭をワシワシと撫でてきて、それが終わると、僕を抱き上げました。
「正解だ、エギル。よく気が付いたな、偉いぞ。」
そう言って父上は、この廊下の説明をしてくれた。父上によるとこの廊下は、『歴人の廊下』と言うらしい。ここに飾られている肖像画は、歴代国王と歴代の王国政府宰相である。
廊下に掲げられる条件は、引退しているか死亡しているかの二つである。そのため現役の国王である父上は、掲げられてあらず、引退した国王であるお爺様は、掲げられているのであった。
掲げる配置も決まっていて、歴代国王が廊下北側の壁、歴代宰相が廊下南側の壁となっている。
父上から、その様に説明されながら歩いていると、何枚かの肖像画の額縁が、周りの額縁と形も色も違うことに気づいた。それは、国王と宰相の肖像画どちらにもあり周りと違うから目立っていたのである。
「父上、この質素な額縁の肖像画は、何ですか?」
僕は、一枚の肖像画を指さして父上に聞いた。その肖像画に描かれている人物は、国王の礼装を着込み、王錫を持ち、頭に王冠を載せて、まさに国王であると言っているように書かれているのに、その額縁は、全く装飾されず、ただ黒い木の額縁に収められているのである。
「戒めだよ。この人達の様になるなと言うな。」
そのような言葉を父上は、返してきた。
「戒め?」
「そう、悪いことや、してはダメな事をやってはいけないよと言う、教えだよ。」
「うん、分かった。」
僕は、父上からの言葉を聞いて、黒縁の額縁に入れられた人は、良くないことをしてああなったと理解したのである。
さらに僕たちは、廊下を進んで行きとある扉の近くまで来た。歴人の廊下もあと少しで終わりに差し掛かった場所で、僕は、両側に掲げられた、巨大な肖像画に圧倒された。
その二つの肖像画には、北側に男性の肖像、南側に女性の肖像が書かれていた。そして南側に掲げられているのは、女性の肖像画だけであった。今までは、南側には男女の肖像画が、少なくて五枚、多くて十二枚、掲げられていたが、この場所だけは、この女性一人なのである。
そのことに僕が、疑問を持っていると、父上が、こう言って来た。
「北側にあるのが、我が国の偉大な国祖にして初代国王陛下である、ノルドミスティ陛下である。そして、南側にあるのが、ノルドミスティ陛下の唯一の宰相、ガーベリウム・フォン・ノグランシア初代王国宰相だ。」
「なんで、お爺様も、他のご先祖様も宰相はいっぱいいるのに、このご先祖様は、一人なの?」
僕は、もっともな疑問を父上にぶつけた。
「初代陛下が、初代宰相を最も信頼し、最も頼ったためだよ。」
「へぇ~、すごい人だったんだね。」
父上からの回答に僕は、そう返事をした。そうこうしていると、歴人の廊下の突き当りの扉に到着した。父上が、扉の横に立っている侍女の人に何かを言うと、侍女の人は、扉を開け、僕たちを誘った。
侍女の人に先導されながら、扉の先の廊下を進んで行き、とある部屋の扉の前で止まった。侍女の人は、扉をノックすると、中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
その声が、聞こえるとその部屋の扉が中から外から内へ開かれると、そこには、六人の人たちが待っていた。
「父上、母上、お招きにより参上いたしました。」
父上が、部屋の中心にいる老夫婦に挨拶をする、それに続いて母上たちと姉上が挨拶をした。
「「お養父様、お養母様、ご機嫌麗しくございます。」」
「お爺様、お婆様、おはようございます。」
それに続き僕も、挨拶をした。
「お爺様、お婆様、おはようございます。」
そう言うとお爺様が、笑顔を浮かべながらウムウムと頷きながら、挨拶をしてきた。
「うむ。五人とも、息災で何よりだ。特にエギル、病からの回復誠に大儀である。」
「ありがとうございます、お爺様。」
僕が、お礼を述べると、お爺様の隣に座っていたお婆様が、僕と姉上を手招きした。
「アリベル、エギル、お婆様の御膝にいらっしゃい。」
お婆様が、膝をポンポンと叩いていた。僕と姉上は、父上と母上たちを見て、頷いたのを確認して、お婆様の元に向かった。僕と姉上は、お婆様の膝の上に乗り、父上たちは、僕たちから正面のソファーに腰を下ろした。
「ジル伯父上、シヨン伯母上、ガル叔父上、シルビア叔母上、御無沙汰しています。」
僕は、伯父上夫妻と叔父上夫妻に挨拶をして、病気からの回復を報告した。報告が終わると、両夫妻からそれぞれ誕生日のプレゼントを貰った。
「ありがとうございます、ジル伯父上、ガル叔父上。」
「エギル、開けてみなさい。」
「はい。」
僕は、伯父上たちに促されて、二つのプレゼントの包みを破った。そしてまず、ジル伯父上からプレゼントを開けた。
そこには、これから使うであろう、羽ペンと万年筆、インクのセットが入っていた。
「エギル、これから勉学をしていくのに辺り、私たちからはこの筆記セットを贈る。しっかりと使ってくれよ。」
ジル伯父上が、言って来た。
「ありがとうございます。大事に使わせてもらいます。」
僕は、伯父上にお礼を言った。
それが終わり今度は、ガル叔父上のプレゼントを開けた。そこには、何かが納められた箱が入っており、箱を開けると中から、特殊な形をしたナイフと、そのナイフを収納するさやが入っていた。
「エギル。このナイフは、いろいろな用途で使えるナイフだ。生き残るために必要なナイフだ。ただし決して人を傷つけるナイフにしてはいけない。それが守れるなら、受け取れ。」
「うん、絶対に守る。」
僕は、ガル叔父上に約束をした。ガル叔父上は、それを聞いて僕にナイフを渡してきた。そして、ナイフの扱い方と研ぎ方を教えてもらった。
この貰ったナイフが、すぐに使うことになるとは、この時の僕は、想像していなかったが。
それが終わると、お爺様からプレゼントを渡された。
「お爺様、ありがとうございます。」
「エギル、開けてみなさい。」
お爺様に促されて包みを破り中身を確認すると、小さな箱が出てきた。これは何だろうと思っていると、お爺様が答えてくれた。
「それはな、[賢者の書庫]と呼ばれる魔法具だ。」
「賢者の書庫? どういう魔法具ですか?」
お爺様の説明によると賢者の書庫とは、個人が持つことのできる世界の知識を詰め込んだ魔道具とのことだ。使い方は、とても簡単でこの魔道具を置いて、設定したキーワードを言うと魔道具が扉の形になり、そこに入ると、中が巨大な書庫になっているというのである。そして、その書庫から出る時も、設定したキーワードを言えば扉が現れて帰ってくることができるとの事である。さらに最初に登録した魔力の形を持つものでしか扱うことができないため非常に安全であるとの事であった。
「ありがとうございます、お爺様。大切に使わせていただきます。」
僕は、お礼を言い、早く入ってみたいと思うのであった。
次に、プレゼントをくれたのは、お婆様であった。渡されたのは、少し小さな包みであった。
「エギル、開けてみなさい。」
「うん、お婆様。」
渡された包みを破り中身を出すと、少し小さい袋が出てきた。袋をしげしげと観察していると、お婆様が、この袋について説明してくれた。
「これは、魔道具[無限収納]よ。何でも入れることができる袋で、入れた物をそのまま保存することができるわ。」
お婆様が、この袋について他に教えてくれたことは、使用者にしか扱えないこと、生きている動物や人は入らない、どれだけ物を入れても重さは変化しない、武器なども収納できる、などたくさんであった。
「お婆様、ありがとうございます。」
僕は、お婆様にお礼をいって、肌身離さないように、ズボンのベルトに止めた。
こうして、僕の快癒報告とプレゼントの渡しを兼ねた、王族の集まりは終わり、僕たちは、再び西宮を出て、後宮に戻っていった。
父上や母上たちからプレゼントは、今度開かれる、僕の誕生日パーティーで渡されるとの事であった。今から楽しみである。
〔デイ・ノルド王国〕首都 〔ハルマ―〕王城 後宮
今日は、僕の誕生日を祝うパーティーが開かれる日である。僕は、パーティー出来る正装に身を包み、母上たちの迎えを待っていた。
「殿下、いらっしゃいました。」
「うん、分かった。」
扉が開かれ母上たちが、入ってきた。
「エギル、準備は整っていますか?」
「はい、母上。大丈夫です。」
そう答えると母上が、しゃがみこんで服装の点検を始めた。
「タイが、曲がっていますよ。苦しくても我慢なさい。分かりました?」
「はい、母上。」
母上は、一通り点検し終えると、立ち上がり、手を差し出してきた。僕は、その手を握り母上と共に父上が待つ、王城大広間の控室へ向かって部屋を出た。
〔デイ・ノルド王国〕首都 〔ハルマ―〕王城 大広間
僕は、母上と共に父上に合流して、大広間の控室で入場を待っていた。少しして、儀典官と言う人が、入ってきて、父上に入場の時間だと告げた。
「エギル、準備はいいか?」
「うん、大丈夫だよ。」
僕が、このパーティーで言わなければならないのは、父上へのお礼、集まってくれた人たちに対するお礼、そして、父上から貰う褒章の内容である。
実は僕たちの国で、三歳、五歳、七歳、なった子供は、それぞれの誕生日に願いをかなえてもられるという風習がある。そのお願いの幅はとてつもなく広いため、中には実現できないものもある。それでも、子供の成長を祝うという趣旨でこの風習は、大事にされている。ちなみに、叶えることができない願いを言った子供は、叶えることができる願いを次の年の誕生日に叶えてもらえる。
そして父上が、僕と母上に立ちよう促した。
「では、行こうか。エギル、マリア。」
「はい、父上。」
「はい、陛下。」
父上が母上をエスコートする体制となり母上の空いている手を、僕が握り、父上の先導と共に大広間へ進み出たのであった。
大広間に進み出て、父上と来てくれていた人々にお礼のあいさつを行い、父上と母上と共に、挨拶に来る貴族たちに会い、すこし軽食を食べて過ごしていると、最後の大きな仕事がやってきた。
「殿下、陛下がお呼びです。」
「うん、分かった。」
僕は、呼びに来た侍従に付き添ってもらい、国王陛下としての父上の前に進み出た。僕の周りに貴族たちが集まってきた。
僕は、父上に対して臣下の礼を取ると、父上の言葉を待った。
「〔デイ・ノルド王国〕第1王子、エギル・フォン=パラン=ノルド」
「はっ。」
「そなたの、満三歳の祝いを祝し、ここに褒章を授与したい。なにか願いはあるか。」
「恐れ多き申し出ありがたく頂戴いたします。」
「うむ、では願いを申してみよ。」
「はっ。私の願いは……。」
僕は、この時の願いを一生忘れないであろう。なぜならそれが、全ての出会いの元となり、僕を形作ることになったのだから。
「はっ。私の願いは、最高の教育者による勉学をお願い申し上げます。」
この時、エギル・フォン=パラン=ノルドが願った願いは、後に王国だけではなく、大陸中に影響を及ぼすものであった。
この王子の教育に適切な人材は、〔デイ・ノルド王国〕には、たった一人しか存在しなかった。その人物は、王国の建国に深く関わり、初代国王の盟友にして師、さらに救国の英雄と謳われる人物であった。
その名は、ガーベリウム・フォン・ノグランシア初代王国宰相。またの名を、大賢者リウムと言う。
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