第5話 目覚めと本


 〔デイ・ノルド王国〕首都 〔ハルマ―〕王城 後宮 とある部屋


 僕の意識が覚醒した。まだ少し熱があるように感じられるが、問題ないと思う。そしてゆっくりと瞼を開けると、いつもの見慣れた天井が見えてきた。「あ~ぁ、よく寝たな~」という感想が浮かんだ。

そして、体を起こすと部屋には外から月の光が入ってきていた。どうやら、夜なのだと認識をした。

起きてすぐなので、のどが渇いていた。確かいつもだったらベットの横の台に水差しがおいてありいつでも飲むことができたなと思い、横に向くと、案の定水差しが置いてありコップも置いてあった。僕は、水差しを取りコップに、水を注ごうと持ち上げたが、何故か、手に力が入らず水差しを落としてしまった。


  ガシャン


と言う、水差しの割れる音が聞こえた。「あっ、やってしまったな~」と思っていると、何か、扉の向こうが騒がしくなってきて、何人もの人の足音が聞こえてきた。


 ドタバタドタバタ


 足音が、ドアの前で止むと、いきなりドアが開かれた。


「殿下、御無事ですか?」


 との声と共に侍女の人たちと、近衛の女性の人たちが、部屋になだれ込んできた。僕は、余りの事にビックリしてしまい、間抜けな声が出た。


「へっ。」


「「「「「………………」」」」」


 嫌な沈黙が流れた。しかし、すぐにみんな再起動し、一人の侍女が、話しかけてきた。


「殿下、お加減はよろしいでしょうか?」


「うん、ちょっと熱っぽいけど、大丈夫。」


「それは、ようございます。何か、御入用の物は、ございますか?」


「水差しを、割っちゃったから、新しいのを用意をお願い。」


「かしこまりました。」


 入ってきた侍女たちと近衛騎士たちは、頭を下げて部屋を後にした。そのすぐ後、扉の外から何人かの声が聞こえてきた。


「陛下と王妃様たちをお起こし申し上げろ。」


「西宮にも、報告申し上げるのだ。」


「直ちに、侍医を呼び、殿下の健康状態を観察。」


「新たな水差しを用意しなさい。」


 そんな風に指示をする声がした後、バタバタと言う音が聞こえていた。その数分後、新しい水差しとポットが運ばれて、割れた水差しは綺麗に回収された。


「殿下、お水です。」


「ありがとう。」


 僕は、渡された水をチビリチビリと飲み、のどの渇きを癒した。


「もう一杯。」


そう言って、僕は、コップを侍女に手渡した。


「はい、お待ちください。」


侍女は、手早い手つきで、水差しの水と、ポットのお湯を両方入れたコップを渡してきた。


「ぬるま湯です。どうぞ。」


「ありがとう。」


 僕は、それもゆっくりと飲んでいった。ぬるま湯を飲み終え、コップをベットの横にある台に置いた時、部屋の扉がノックされた。


   コンコンコン。


 侍女が、扉の方へ向かい、すひし扉を開けて訪問者を確認しこちらに戻ってきた。


「殿下、侍医の先生が参っております。」


「うん、入ってもらって。」


 侍女が部屋に侍医の先生を招き入れた。先生は、入ってきて僕の様子を少し観察すると、ベットの所まで来て、もう一つの台に診察をするための道具を出していき、準備を整えて、再び僕に向き合った。


「殿下、ご気分は如何でしょうか?」


「うん、まだすこし熱っぽいけど、大丈夫。」


「そうですか、それではお胸の音と熱をお測りいたします。」


「は~い。」


 侍医は、先端にキラキラした石が付いた棒で胸の音を聞き、筒の中にキラキラした石をはめ込んだ眼鏡みたいなのを眼に着けて熱を測った。それからいくつかの診察をして、侍医は、こんな事を言った。


「あ熱が、少しあります。お薬を出しますので、ゆっくりとお休みください。」


「は~い。」


 侍医は、持ってきていたカバンの中から薬を出しコップにほんの少量注ぎ、僕に渡してきた。


「はい、殿下。少し苦いですが、頑張って飲んでください。」


「うん、いただきます。」


 僕は、いお決して飲んだ、口の中に苦い味と少しの甘い味がした。それを飲み下してコップを侍医に突き返した。


「あ~ぁ、苦かった。」


「はい、よくお出来になりました。それでは、お休みください。」


 侍医は、そう言うと、器具などを片づけて部屋を、出て行った。


「「「殿下、それではお休みなさいませ。」」」


「うん、お休みなさい。」


 侍女たちが、挨拶をすると部屋を、出て行った。そして僕は、再び眠りについたのである。




 翌朝 〔デイ・ノルド王国〕首都 〔ハルマ―〕王城 後宮 とある部屋


  チチチチチチチュン

 鳥のさえずりが、聞こえてきた。僕は、それが聞きこえると眼を開けた。ベットの上でゆっくりと伸びをする。伸びが終わり、ベットから体を起こすと、昨日の夜に起きた時に感じていた熱っぽさが消えていて、気分がすっきりとしていた。

  コンコンコン

 そんな事を考えていると扉がノックされ、侍女たちが入ってきた。


「「「殿下、おはようございます。」」」


「うん、おはよう。」


 僕は、侍女たちに朝の挨拶をし、ベットを出ようとした。


「お待ちください、殿下。まだベットから出てはなりませんよ。」


「えっ、どうして?」


「侍医の先生の診察が終わるまで、出てはなりません。」


 僕は、「もう、治ったのにと」思いながらも、彼女たちを困らせるのは、よくないと思い、ベットから出るのをやめた。


「すぐに、侍医の先生がいらっしゃいます。それまでご辛抱ください。」


「は~い。」


 僕は、若干ふて腐れた返事をして、侍医の先生が、到着するのを待った。それからしばらくもしない内に先生が到着し、昨日と同じ診察を行った。


「お熱も下がりましたね。」


「もう、ベットから出てもいい?」


「はい、構いませんよ。ですが、今日1日はお部屋でお過ごしください。」


「は~い。」


 病み上がりだから、仕方がないなと思って、今日1日は、部屋で過ごすことに決めた僕は、ベットを出て、先生にお礼をいって、先生を見送った。


「先生、ありがとう。」


「はっ、ありがたき幸せ。」


 そう言って先生は、部屋を出って行った。先生が、出ていくと同時に部屋のテーブルに、朝食が運ばれてきた。今日のメニューは、野菜とお芋のスープであった。


「では、殿下。お召し上がりください。」


 僕は、神々にお祈りをして、手を合わせた。


「いただきます。」


 少し濃い目の味付けがされたスープを、僕は、残すことなく食べた。食べた後、寝るための服から昼に着る服に着替えをして、部屋の椅子に腰かけた。


「何か、することないかな。」


 そんな事を言って椅子に座っていると、部屋の外から誰かが走ってくるのが聞こえた。その足音は、部屋の前で止まった。すると部屋の扉が勢いよく開く音がした。何だろうと見ようとすると、お馴染みの声が聞こえてきた。


「エギル。」


 僕を呼ぶ、姉上の声だった。


「エギル、元気になった?」


 そう言って、椅子に座っている僕を見つけて走り寄ってきた。


「エギル~。」


「えっ、ちょっと待って。」


 姉上は、僕に飛びついてきた。そしてそのまま、抱き着かれて捕獲されてしまった。


「ギューッと」

「姉上、苦しい。」


「心配かけたんだから、これぐらい我慢する。」


 「そんな~。」と、思いながら姉上の抱き着き攻撃に耐えていると。


「あらあら、朝から元気いっぱいね。」


「そうね、とっても仲良しね。」


 と言う、二人の女性の声が聞こえてきた。


「母上、ママ様、見てないで助けてよ。」


 僕の母上とママ様(姉上の母上)が、部屋にやってきていた。2人は、抱き着かれている僕と、抱き着いている姉上をみてコロコロと笑っている。するとまた別の人物がやってきた。


「ハハハ。うむ、善き哉善き哉。」


 そう言ってやってきた父上は、姉上と僕の頭に手を置いてなでなでをしてきた。


「父上、おはようございます。姉上もそろそろ離してください。」


「あはよう、エギル。アリベル、離してやりなさい。」


 父上がそう言うと、ようやく姉上が抱き着きを解いてくれた。これで、ちゃんと朝の挨拶ができる。


「改めまして、父上、母上、ママ様、姉上、おはようございます。」


「うむ、おはよう。」


「おはよう、エギル。元気になってよかったわ。」


「おはよう、エル。体調は、大丈夫。」

「エギル、おはよう。」


 そう言って、朝の挨拶を交わすと、一人一人とハグをする。それが終わり、父上が何か欲しいものは、あるかと僕に聞いてきた。


「じゃあ、本をください。」


「本、物語の本か?」


「いいえ、いろんな事が載っている本です。」


「なぜ、それが欲しいだ?」


「いろんな事を知りたいと思ったのと、暇つぶしです。」


「ふむ、分かった。用意させよう。」


「ありがとうございます。」


 こうして僕は、図鑑と呼ばれる本を手に入れた。その本には、いろいろな事が書かれていた。僕は、それを夢中で見ていった。

本の中の神様の項目を見た時、僕は、ある事を思い出す、心の世界で神様に出会ったこと、神様から贈り物をもらったこと、そして、その贈り物を使うための方法を。




 3歳の誕生日まで、後一週間であった。

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