第7話 試練と冒険


 〔デイ・ノルド王国〕内 とある山脈 山頂付近


  キュエキュエキュエ

 今日も家の近くに住む、鳥たちのさえずり声が、聞こえてくる。その声を聴きながら私は、書斎でとある手紙を読んでいた。

今日の朝に王国の使者が、持ってきたものである。その差出人は、今代の王とその第1王子である。

 手紙の内容は、以下の通りである。


【拝啓、大賢者リウム殿。益々のご健勝をお喜び申し上げます。 この度、手紙を差し上げますは、我が息子、第1王子エギルの3歳の誕生祝の願いよります。その願いは、最高の教育者による勉学を受けると言うものです。これを叶えられるのは、我が国におきましてリウム殿しかおらず、この度の願いのため、再びの出仕をお願いいたしたく存じ上げます。 敬具 〔デイ・ノルド王国〕第39代国王 アランディア・フォン=フェニア=ノルド 】


 そしてもう一つの手紙には、エギルと呼ばれる王子からの願いが書かれていた。


【拝啓、大賢者リウム殿。益々のご健勝をお喜び申し上げます。 僕が、お手紙を差し上げるのは、この度の誕生の祝いの願いを叶えるためです。父上たちに、お伺いしたところ、この願いを叶えられるのは、貴方をおいて他にはないと教えられたためです。僕は、この先の未来に、知恵を付けるための土台が欲しいと願っています。その知恵を民のために使いたいと願っています。何卒、僕に知恵の土台を作るための先生になってください。お願いします。 敬具 〔デイ・ノルド王国〕第1王子 エギル・フォン=パラン=ノルド】


 との事が、子供の字で書かれていた。この手紙を見ると、自ら書いた手紙であることがよく分かる。侍従や侍女たちに代筆を頼めば良いものを、それを良しとはしなかったのであろう。

 私は、その王子に会ってみたいと思った。自らの願いを、自らの言葉で書くことができる王子に。

 私は、2つの返書をしたためた。その返書を、待機していた使者に預け、使者がゲートを通って下山していくのを確認し、とある準備に取り掛かった。


「エギル殿下、お会いするのを楽しみにしています。この大賢者の試練、見事に突破されますことを願います。」





 〔デイ・ノルド王国〕首都 〔ハルマ―〕王城 後宮


 僕は、その日後宮の談話室で母上たち見守られながら図鑑で勉強をしていた。大賢者リウム殿に手紙を出して、返事があるまで、母上たちが、僕の勉強を見てくれると言うのでそれに甘えた格好だ。


「エギル、無理をしてはいけないわよ。」


 母上が、僕の体調を気遣って休むように言って来た。僕は、母上の方に振り向くと、母上の顔に不安そうな表情が浮かんでいた。反対側を向くと、ママ様の顔にも、不安そうな表所が浮かんでいた。

僕は、二人を心配させてはいけないと思い、本を閉じて、休憩に入ろうとした。ちょうどその時、侍女の一人が談話室に入ってきた。


「失礼いたします。お寛ぎの所申し訳ありません。」


 侍女は、そのままこちらに着て、僕に手紙を差し出してきた。


「殿下、先ほど大賢者リウム様よりお手紙が参りました。」


 僕は、それを聞いて侍女が差し出していた手紙を受け取ると、中身を確認した。


【拝啓、〔デイ・ノルド王国〕第1王子 エギル殿下。 私めに、この様な丁寧なお手紙を下さり恐悦至極に存じ奉ります。また、この度の3歳のお誕生日を臣下の一人としてお祝い申し上げます。 さて、殿下の願いを叶えるのにあたりまして私は、殿下の覚悟の程を確かめとうございます。殿下が、学ぶ意欲をどれだけお持ちなのか手紙からだけでは、この私ですら推し量るのは不可能でございます。そのため、私の暮らす山に来ていただきたいのでございます。私と、直に会ってお話をさせて頂きたいのであります。何卒ご検討くださいます様、お願い申し上げます。 敬具 ガーベリウム・フォン・ノグランシア】


 と書かれていた。


 僕は、手紙を読み終えてそれを母上たちにも見せた。母上たちは、手紙を読み終えると僕をギュッと抱きしめてきてこう言って来た。


「エギル、自分がしたい事をしなさい。それがあなたの道をさらに開かせるわ。」


「そうです、エギル。貴方は、自分の未来の道を自ら開いた、母たちは、それを支えるために居るのですよ。」


 僕は、母上たちに思わず聞いてしまった。


「心配じゃないの?」


それを聞いた母上たちは、眼に涙を浮かべてさらにギュッと抱きしめてきた。


「母は、いつも心配しています。貴方に何かあったら、母は耐えられない。でも貴方が、したいと言うのなら心配しながらでも応援し支えるのが母の役目です。」


「ママも、いつもいつも心配しています。貴方が大切だからこそ、ママも何かがあったら耐えることはできない。だけど貴方のしたい事を妨げるのは、ママは、とっても嫌いなの。だから貴方がしたい事をするべきなのよ。」


 僕は、母上たちにとってもつらい質問をしてしまったらしい。母上たちが、泣いているのを見ると僕も、非常につらかった。僕は、母上たちにハグを解いてもらい、床に座って頭を垂れた。


「母上、ママ様、変な事を言ってごめんなさい。」


 そして僕は、謝ると顔を上げてこう切り出した。


「大賢者の住む山に行って、大賢者と話してくる。そして、僕の先生になってもらう。」


 母上たちは、それを聞くと侍女を呼んで、父上の元に向かうように指示をした。侍女は、それを聞き後宮を後にしていった。



 1時間前 王城 国王執務室


 私が、執務をしていると秘書官長になっていたホルヘイが、訪ねてきた。


「陛下、執務中失礼いたします。」


 私は、最後の書類に裁可をして、それを横に置いて、ホルヘイに顔を向けた。


「いや、今終わったところだ。で、何かあったか。」


「はっ、大賢者殿に送られた使者が、戻ってまいりました。」


「戻ってきたか。して今、何処にいる。」


「現在、謁見の間にて待機しております。」


 私は、それを聞き謁見の間に向かう準備をしながらホルヘイに宰相を呼ぶよう言付けた。

私は、準備を終え部屋を出て衛兵と共に謁見の間に向かった。しばらく歩いて謁見の間に通じる扉に到着した。そこに宰相も到着し、私たちは、扉をくぐり謁見の間に入った。

私は、玉座に腰を据えると、平伏している使者に頭を上げるように言った。


「大儀であった。面を上げよ。」


「はっ。」


 私は、頭を上げた使者に大賢者殿へ宛てた手紙の返事を確認した。


「して、大賢者殿からの返事は。」


「はっ、大賢者殿からは、二通の手紙をお預かりいたしています。」


「うむ、ご苦労であった。ゆっくり休むがよい。」


「はっ、失礼いたします。」


 私は、使者を労い謁見の間を退出した。そのまま、宰相を連れ執務室に戻ってきた。私は、席に着くと手紙を出して読みだした。


【拝啓、〔デイ・ノルド王国〕国王 アランディア陛下。ご即位以来の手紙を受け取り臣下の一人として、喜ばしい限りでございます。さて陛下は、私に第1王子殿下の教育を任せたいとのご意向であると承ります。しかし、陛下のご意向であろうと、王子殿下にその気概がなければ、私は、お受けするにはまいりません。 そこで王子殿下に、試練を課したいと考えています。ご安心ください、危険な試練ではございません。 私の住む山に王子殿下が来ていただき私とお話をするというものです。この試練に見事完遂されましたら、殿下の教育を行わせていただきます。 敬具 ガーベリウム・フォン・ノグランシア 追伸 試練の詳細は、別紙に記載しております。】


 と書かれていた。私は、これが父上から聞いていた、大賢者の試練と言うものかと思った。私は、同封されていた試練の実施要項を取り出し読みだした。


【試練の実施の3つの条件を、提示いたします。 一つ、付き添いは、殿下専任の衛剣二人まで、世話のための侍従侍女は認めない。 一つ、移動に馬車を使ってはならない、馬か徒歩で。 一つ、必ず野営を一度以上行う事。 以上の3つの条件以外は、自由とする。】


 私は、これを見て子供には、きつすぎる試練ではないかと思った。さらに親として言えば子にこの様な試練を課すのはどうしても躊躇いを感じてしまう。さらに言えば、現在この国唯一の王位継承者と言うのもある。そのような事を考えていると、扉が開きホルヘイが入ってきた。


「陛下、後宮より侍女が参っております。」


 私は、それを聞いて何かあったのかと思い、その侍女を招き入れた。


「入ってもらってくれ。」


「はっ。」


 ホルヘイは、扉を閉め侍女を呼びに行った。そしてすぐに、扉がノックされ後宮の侍女が執務室に入ってきた。


「後宮で何かあったのか?」


 私は、侍女に尋ねると、彼女は、意外な事を述べたのであった。


「いえ、後宮において異変があった訳では、ございません。」


「では、どうしたのだ。」


「第1王子殿下が、御決断をなさいました。大賢者様の試練をお受けになると申しております。」


「何、誠か?」


「はい、誠でございます。」


 私は、それを聞いてエギルは、覚悟を示したと思った。私たち親に対して。

私は、息子がこんなにも早く成長していくとは夢にも思っていなかった。だがエギルは、自ら決断をしたのである。これを喜ばない親がいるものか?

いや、いない。

私の仕事は、エギルの決断を後押ししてやることだと思い、宰相に直ちにエギル専任の衛剣の選定を命じた。宰相が、執務室を出ようとすると、こう言って来た。


「陛下、もう迷われませんな?」


「当たり前だ、息子に覚悟を示されたなら、親もそれ以上の覚悟を示してやると言うものだ。」


「はっ、陛下のお覚悟、確かに臣に伝わりました。」


「うむ、頼むぞ。」


「はっ。」


 そして宰相は、執務室を出て行った。私は、侍女に「了承した」とエギルへの言伝を頼んだ。そうしてこう付け加えた。


「夕食が終わり次第、王宮の私の部屋に来るように言ってくれ。」


「かしこまりました。」


 侍女が退室をすると、私は、残りの仕事を片付けて、王宮の自室に向かった。





 6時間後、王城 国王私室


 僕は、父上に夕食の後に部屋に来るように言われ、ここに来ていた。まだ父上は、帰ってきていない。父上の部屋に入るのは、初めてだ。いろいろなものが置かれていてすごく興味をそそられる。そんな事を考えていると、父上が戻ってくる音が聞こえた。


「エギル、来ているか?」


「はい、父上。」


 父上は、僕が居るのを確認して部屋に入ってきた。そして机まで歩いて行き着席した。それから、僕をジ~と見つめて、ニヤッと笑って頷くと立ち上がり、机の後ろの台の扉を開けて、何かを取り出して、僕の目の前に歩いてきた。


「エギル、父として、また王として、お前に褒美を与える。」


 そう言って、大小二本の棒を差し出してきた。


「何ですか? これは。」


 僕が疑問を呈すと。


「これは、お前の曽お爺様が、父上にくれたものだ。刀と言う武器だ。」


 父上は、そう答えてくれた。僕は、「刀。」言いそれを眺めた。


「これを、お前に授ける。覚悟を示した事への褒美だ。受け取りなさい。」


 僕は、差し出された大小の刀を受け取った。受け取った瞬間、両手にズシッという重さを感じた。


「お、重い。」


「それが、お前が示した覚悟の重さだ。」


 そう言って、父上は、僕の手から刀を取り、何かの台に乗せた。


「今は、まだ身に着けることはできないから、この台に置いておきなさい。」


それを言うと、僕にその台を持たせて、刀は、父上が持ち、部屋を出ることになった。後宮までの道のりで、僕たち親子は、特に話すことをしなかったが、僕には、父上の覚悟を感じることが出来たのであった。



 それから数日をして、僕は父上に、謁見の間に呼び出されていた。これから行われる、衛剣任命の儀と呼ばれる式典に参加する為である。この式典で、僕の専任警護をする男女の近衛騎士が、任命されるのである。


「これより、衛剣任命の儀を執り行う。呼ばれた者は、前に出て、陛下と殿下に頭を垂れよ。」


 儀典官が、そう言って儀式が始まり、宰相が、その任に着く近衛騎士の名を読み上げた。


「第二近衛騎士隊、セドイス・グランベール。」


「はっ。」


「続いて、第五近衛騎士隊、オルティシア・フォン・スホラーゼル」


「はっ。」


 二人の騎士が、前に進み出て、跪いて臣下の礼を取った。


「うむ、大儀である。」


 父上が言うと。


「陛下より、剣を賜る。」


 二人の近衛騎士たちに、衛剣だけが帯びることが許される剣が父上から渡された。そして父上が、二人に俺を紹介した。


「息子のエギルだ、二人ともよく仕えてくれ。」


「「はっ」」


 僕と父上に礼をして二人は、元の位置に戻っていった。


「これにて、儀式を終了する。陛下と殿下が退室される、皆、頭を垂れよ。」


 僕と父上は、謁見の間を出て行き、僕の専任の衛剣との食事会に向かった。

そこで、父上と衛剣二人と食事をして、二人の事を知ることになった。


 その数日後、僕の姿は、オルティシアが跨る馬の背に在った。


「それでは殿下、まいりましょうか。」


「うん、出発進行。」


「「はっ。」」


 その掛け声とともに二人は、跨る馬に鞭を入れ、僕たち三人は王城を出発した。


 さあ、冒険の始まりだ。

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