第4話 「転生5日目」

 転生五日目、五回目の朝を迎えるというのに全く脱出案が思い浮かんでおらず、俺と明日葉の間には終戦ムードが漂っている。


「もう五日目だね……。月曜始まりなら今日で学校終わりで明日から土日休みだよ」

「嫌なこと口にするなよ……」

「いっそのこと脱出諦めちゃった方が楽になりそうじゃない? 閉じ込められてる理由は分からないけど朝昼晩と三食付きでかろうじてお手洗いができるスペースはあるし、生きていくのには困らないよ?」

「バカ言うな。いつ処刑されるかも分からないし急に飯が貰えなくなる可能性だってある。そんな不確かな状況にあぐらかいてるわけにはいかないだろ」


 未だに俺たちがこの世界に転生してきた理由も閉じ込められている理由も分からないが、いつどんな理由で処刑されるかも分からない。


 牢屋での時間はあまりにの経過するのが遅く感じるが、転生して五日目とも言える。


 諦めるには早すぎるだろ。


「正論すぎて言い返す言葉が見当たんないや。はぁ……まだ結婚できないのか〜」

「まあ口約束程度に結婚しとくのはアリかもしれないけどな」

「--え?」


 転生三日目に明日葉から言われた結婚の話、俺はあれから結婚について考えてみた。

 

 結婚した女性とは今後の人生をずっと共にしていくのだからそう簡単に決められたものではない。

 それはどんな状況であっても揺るがない事実だろうが、今の俺たちの状況は特殊すぎる。


 明日葉の言う通り、どうせ死んでしまう可能性があるのであれば今のうちに口約束程度で結婚しておくのはアリなのではないかと考えていた。


「いつ死ぬかもわかんないこんな状況だからな……」

「え、本気で言ってる?」

「本気のつもりなんだが……。すまん。今の発言は取り消してくれ。疲労で頭がどうかしてるみたいだ」


 こんな状況なら明日葉と結婚してもいいのではないかと考えていたのは事実だが、やっぱりおかしいよな……。

 牢屋の中での生活ももう五日目、流石に冷静な思考回路を保ててはいないようだ。


「私は取り消してもらわない方が嬉しいけど⁉︎」

「--っ!? だ、ダメだ。やっぱりこんな結婚の仕方は間違ってる」

「こんな状況で間違いもクソもないよ〜」

「こんな状況だからこそだ。冷静になって脱出方法を見つけないと」

「え〜もうとりあえずでいいから結婚するって言ってよ〜」

「とりあえずで結婚するなんて言えるか‼︎」

「ほんっとに頭硬いんだから……」


 確かに今の俺は頭が硬いのかもしれない。


 だが、今の俺たちがしなければならないのは結婚ではなく脱出だ。

 俺自身が脱出したいと思っているのは当たり前だが、それ以上に明日葉を脱出させてやりたいと思ってる。


 それなのに、結婚なんてしてしまったら脱出しなくていい理由が一つ増えてしまうことになる。


 だから結婚は絶対にできない。


「ほら、変なことばっか言ってないで早く脱出する方法考えるぞ」

「はいはい……考えればいいんでしょ考えれば」


 こんなことをしても罪を償うことにはならないかもしれないが、俺は明日葉を助けることで元の世界で助けられなかった明日香に対しての罪を償おうとしているのかもしれない。


 ただの自己満足なのかもしれないが、それでも俺は明日葉を脱出させてやりたかった。


 それから俺たちはまた脱出の方法について検討を始めた。

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