第3話 「転生4日目」

 俺がこの世界に転生されて四日目。


 昨日まではなんとなくいつかは脱出できるのではないだろうかと楽観的に考えることができていたが、看守の姿を目の当たりにしたせいか俺の心は完全に折れてしまっていた。


 食事の回数を見れば今日が転生されて四日目だというのは理解できるが、この狭くて暗い牢屋に閉じ込められている俺からするとすでに一ヶ月は経過したのではないかと錯覚してしまいそうな程に時間の流れが遅く感じている。


「どうすっかな……。あの看守の姿見たらもう脱出の方法なんて思い浮かばねぇけど……」

「それ分かる。これ結婚に現実味帯びてきてない?」

「--っ!? めったなこと言うなよ!!」


 相変わらず突然の明日葉のカワボに動揺させられながらも、実際問題このままだと本当に俺たちは事実婚することになりかねない。


「本当に結婚しちゃう?」

「それOKしちゃうと脱出諦めたことになるからお断りさせてもらうわ」

「えー別に良くない?」

「良くない」


 異常なほどに俺に結婚を迫る明日葉。

 何か結婚しなければならない理由があるのではないかとさえ思ってしまう。


「結婚OKしたからって脱出諦めたことにはならないでしょ?」

「同意義だろ。明日葉と結婚することで早く脱出しないとって危機感が多少なりとも減ってしまうのは脱出するのが遅くなる原因になりかねないからな」

「お硬いねぇ。頭柔らかくしないと脱出できないよ?」

「硬いから今こうして悩んでるんだろ」

「そりゃそうだ。……まあいつかは脱出できるでしょ」

「明日葉は気楽すぎるんじゃないか」

「否定はしません。でもまあ、諦めは悪い方だから」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は再び前世の幼馴染、明日香のことを思い出していた。




◇◆




 両親同士の仲が良かったこともあり、俺と明日香は子供の頃からの知り合いで所謂幼馴染だった。

 学校は小中高と一緒でもしかしたらこのまま結婚なんて……と考えていたこともある。


 しかし、その出来事は突然起こったのだ。


「やめなよ。人の嫌がることするなんて最低だよ?」


 そう声が聞こえた方を向くと、明日香が何やらクラスメイトと口論をしているようだった。

 遠くからその状況を見ていたが、以前からイジメられていたクラスメイトをイジメッ子から庇っていたらしい。


 それが初めて明日香がイジメられていたクラスメイトを助けた日ではあったが、明日香はそれ以降イジメられているクラスメイトを見ると必ず助けに入っていた。


 そんな姿を何度も見かけていた俺は明日香と喋るタイミングで警告した。


「どれだけ庇ったってイジメなんてなくならないって。それどころか明日香がイジメられる可能性だってあるんだからイジメられてる子を庇うのはもうやめとけよ」


 こう言い放った俺に対して明日香は食い気味に返答した。


「やだよ。目の前で助けを求めてる子がいるのに見過ごすなんてできない。まあ私、諦め悪いし?」


 最後は面白おかしくそう言っていた明日香ではあったが、結局明日香はイジメの標的となってしまいクラスで孤立していった。

 最悪なことに、助けようとしていたクラスメイトも裏切られてしまい明日香は孤立していた。


 そんな状況で明日香の味方をしてやれるのは幼馴染である俺だけだった。

 他の誰も明日香を助けようとはしておらず、俺が助けなければ明日香はイジメられ続け、不登校にだってなっていたかもしれない。


 それなのに、俺は明日香を見捨てたのだ。

 自分がイジメられるのが怖くて、明日香に手を差し伸べることなく明日香との関係を経ってしまった。


 最低で最悪の小心者である。


 俺が事故に遭って当然だと思ったのは、明日香のイジメを見て見ぬ振りしていたことに罪悪感があったからだ。


 もし、この牢屋を脱出して前世に戻れる機会があるとするのなら、俺は必ず明日香を助けるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る