第3話 「転生3日目」
「おーい、祐利くーん」
微かに聞こえた声で俺は目を覚ました。
壁の近くで寝てね? と言われたのに起きるのが遅くなって明日葉から声をかけられて返答できないでいてはお願いを聞き受けたとは到底言えない。
俺は急いで壁に向かって話しかけた。
「ごめん!! 寝坊した!!」
「……おはよ」
「--っ!?」
朝から優しい、それでいて刺激の強い声が耳元で囁かれる。
いや、声だけ聞いたら間違いなく癒しのカワボなんだけど、全く慣れてない俺からしたらただの凶器でしかないから。
というか明日葉も明日葉で俺をおちょくろうと思って狙ってカワボ出してね?
「お、おはよう」
「別に時間合わせてたわけじゃなから寝坊はしてないよ」
「それもそうか……」
「それでどうする? どうやって脱出する?」
明日葉のカワボがずっと聞けるならいっそこのまま脱出なんてしなくてもよいのではないか……なんて考えが頭をよぎるが、脱出できないままでいいわけがない。
何より俺は俺自身が脱出するよりも明日葉をここから脱出させてやりたかった。
「そうだな……。漫画とかでありきたりなのは看守が持ってるカギを奪うとか」
「……確かによく見るかも。今朝も朝食持ってきてくれたし、そのタイミングで看守からこっそり鍵奪っちゃうとか?」
目を覚ますとすでに看守が朝食を持ってきていたようで、地面に朝食が置かれている。
やはり定期的に食事は運んで来てくれているようなので鍵を奪うチャンスはありそうだ。
「それはアリかもしれないな」
「でも看守の人、かなりフル装備だったよ?」
「確かにフル装備だったけどやるしかないだろ」
「じゃあとりあえずお昼まで待とっか‼︎」
「了解!」
それから俺たちは雑談をしながら看守が昼食を持ってくるのを待った。
◇◆
昼食を持ってきた看守を見て俺は絶望した。
看守があまりにもフル装備過ぎるのだ。
看守が食事を持ってくる際に装備についてはあまり気にしておらず、横目で見る程度にしか看守の姿を見ていなかったので、なんとなくカギくらい奪えるのではないかと楽観的に考えていた。
しかし、中世とかで使われてそうな鎧を身に纏い背中には細長い剣と頑丈そうな縦を背負った看守の姿に絶望した。
こんなのムリゲーじゃねぇか……。
とはいえ、その看守の腰に間違いなくこの牢屋の鍵がぶら下がっていることだけは確認できたので、多少なりとも収穫があったと前向きに考えるしかなさそうだ。
「あれは無理だな……」
「あの人から鍵を奪うのは相当難しいだろうね」
「いやーやっぱ積んでるわこの状況……」
「そうだねぇ……。このまま脱出できないならさ、いっそのこと私たち結婚しちゃう?」
カワボで放たれたトンデモ発言に俺は動揺を隠せなかった。
「--は!? 急に何言ってるんだよ!? 無理に決まってるだろ!?」
「ちょっと、大きい声で話すなっていったのはそっちでしょ」
「す、すまん……」
「まあそりゃ勿論婚姻届けとかは提出できないからさー、事実婚的な?」
「そういう話をしてるんじゃねぇよ!! 顔すら見たことないしまだ知り合って二日目の相手とそんな約束できるかって話だ!!」
知り合ってまだ二日目というのもあるが、まだ高校生の俺には自分が結婚するなんて話はあまりにも現実味がなかった。
「えー、今時SNSとかで一回も顔を合わせずに結婚とかしちゃう人だっているくらいだからさー、意外といけるんじゃない?」
「いけるわけないだろ‼︎」
「えー、いけるってー。まあ冗談だけど」
「冗談なの!?」
「そりゃ冗談に決まってるじゃん」
くっそ……。壁の向こうにいるってのに完全に掌の上で弄ばれてるなこれ……。
こんなんじゃ脱出なんて夢のまた夢だぞ……。
「そんな冗談言ってる暇があったら脱出の方法考えろ‼︎」
「ごもっともですね」
「分かってるなら早く考えろ!!」
「はいはーい」
胸の鼓動がおさまらない中、俺は必死に平静を装いながら脱出の方法について検討した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます