第6話 「転生6日目」
転生六日目、目を覚ました俺は昨日の自分の発言を思い出して悶え苦しんでいた。
何が結婚するのもアリだよ⁉︎ なんで上から目線でそんなこと言っちゃってるの⁉︎ 今まで女の子と付き合ったことなんてないし主導権を握っているのはどちらかと言えば明日葉のはずなのに……。
どんな顔して明日葉と話せばいいんだよこれ。
いや、壁があるから顔は見えないんだけどさ……。
「祐利くん……?」
微かに聞こえた明日葉の声に俺は体を飛び起こして壁に耳を当てた。
「ど、どうした?」
「……おはよ」
「--っ⁉︎」
朝から目覚めのボイス、やばすぎるって……。
顔は見えないものの、この声だけで俺が癒しを与えられるのには十分だった。
だがしかし、明日葉の声には少し違和感があった。
「どうした? 体調でも悪いのか?」
「うん。実は私、昔から体が弱くて……。今日まで我慢してきたんだけど、もう限界っぽいかな」
「--は? 限界? 限界ってどういうことだよ!?」
「限界は限界だよ」
急な話すぎてその内容を飲み込むことができないが、限界ということはこの場で息絶えてしまうということだろう。
「な、なんでそんな大事なこと早く言わねぇんだよ!?」
「言ったら気遣わせちゃうかなと思って……」
もっと早く体が弱いと言ってくれればもっと焦って脱出方法を探したっていうのに……。
「とりあえず早く脱出する方法考えるぞ!! 異世界ならここから脱出すれば回復薬とかご都合主義なアイテムがきっとあるはずだし」
「もういいよ。六日経っても脱出できなかったのに、今すぐなんて脱出できるはずないよ」
「そんなのやってみなきゃ分かんないだろ!?」
そう勢いで言いはしたものの、正直今すぐに脱出できる方法なんて思い付く気がしない。
方法があるとすれば食事を持ってくる看守に真っ向勝負で突っ込んで鍵を奪うしかないだろう。
「ううん。私、もう私限界みたい……」
「そ、そんなのってないだろ!? いくら何でも急すぎるって……」
「いいの。私、楽しかったよ? 祐利くんとこうやって脱出する方法を考えたりするの」
「ここを出たらもっと楽しいことなんていくらでもあるって!! だから諦めるなよ!!」
「……ごめんね。もう……無理そう……」
明日葉の声は見る見るうちにお住まい弱々しくなっていってしまう。
もう本当にどうしようもないのかよ……。
「そんな……そんなのって……」
「ねえ、最後にわがまま言っていい?」
「最後って……。なんでも言えよ。できることは何でもする」
最後という言葉に涙が出そうになるが、明日葉の最後のお願いを聞き入れるために涙を流すのは我慢した。
「結婚してくれない?」
「--っ。そんなことかよ。明日葉らしいな」
「でしょ?」
「そんなお願い、お安い御用だよ」
「いいの?」
「ああ。こんなことしかできなくて悔しいけど……」
「ちゃんと祐利の口から言って?」
「……明日葉。俺と結婚してくれ」
「うん。嬉しい」
何が嬉しいだよ。こんな……こんな結婚なんて何にも嬉しくねぇよ!!
「よっ。初めまして、祐利くん」
「--は?」
そう言って俺は声がした方向、鉄格子の方を向いた。
「あ、明日葉……なのか?」
「うーん、まあ正確には明日香だけどね」
「……明日香!? 明日香って幼馴染の!?」
「そそっ。その通り」
声も外見も違う女の子が牢屋の外から急に話しかけてきて、私は明日香だと言う。
そんなわけがないと疑いを持ちもしたが、俺だってこの世界に転生されて声も外見も変わっているので、明日香ではないと確信を持つことはできなかった。
「え、は? ちょっと待て状況が整理できてない」
「整理できなくてもいいよ〜。整理するよりも脱出することが優先だからね〜」
混乱する俺を尻目に明日香と名乗る明日葉は牢屋の扉の外でなにやらカチャカチャと音を立てている。
しばらくするとガチャっと音が鳴り牢屋の扉が開いた。
「よし脱出しよっか」
「は⁉︎ なんで扉開いたの⁉︎」
「ごめんねー実は最初からカギ持ってて」
「最初から持ってた!?」
「うん、なんか看守の人が鍵落としてったんだよね。それ隠し持ってた」
「ちょ、おま。それって……」
「ほら、こんなことしてる間にも看守の人来ちゃうといけないから、早くいくよ!!」
「いや、そりゃそうだけど……」
明日葉に言われるがまま、俺は牢屋を出て牢屋の出口へと向かった。
「ここが出口か……」
「白く光ってるけどどこにつながってるか全く分からないね」
「まさに異世界って感じだな」
「ここ入ったら元の世界に戻れたりしてね」
「その可能性もあるな」
「忘れてもらったら困るよ? 結婚するって約束」
「あ、あれは不可抗力だし有効性ないだろ!?」
「あるよ!! 有効性しかないよ!!」
声も外見も全く違うが、会話をしている間のこの心地良さは紛れもなく明日香と会話をしているときと同じだった。
「……それよりすまんかった。元居た世界では助けてやれなくて」
「いや、あれは私から祐利を避けてたしね。仕方が無いよ」
「本当にすまん」
「ほら、その話はここを出てからにしようよ!!」
「それもそうだな」
そうして俺たちは、手をつなぎながら真っ白に光った牢屋の出口へと飛び出していった。
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