第3話 正体不明の異空間虚構体

 人の強欲さは破壊的である。全てを破壊する――――。

 とあるアメリカの女性歌手が遺した格言がある。

 異空間虚構体の出現により荒廃したこの状況においてもそれは例外ではなかった。


 『随分と見事な出来だ』


 白いローブのような衣服をまとい、頭部すらも白いヴェールで覆った人型の何かが発する機械的な音声。


 「そうでしょう。この特殊個体B-1は、人の姿、言動を複製コピーすることが可能なのです」


 白い人型に媚びへつらうのは髪の薄い男だった。

 自慢げに語るそれは、少女を型どったようなフォルムの銀色の金属質の物体。


 『そして何より自律兵器オートマタの側面を併せ持つ。人を欺き取り入り殺す、この三つを確実に成し遂げられるとは素晴らしい』

 

 全く感情を感じさせない機械音声はしかし、技術者の耳朶には心地よく聞こえていた。


 異空間虚構体特殊個体B-1、初めてそれが投入されたのはタチカワエリアだった。


 ◆❖◇◇❖◆

 


 『全員、離脱!高度500にて待機!』


 ステアー大尉が叫ぶ声に、ウェルロッドさんと僕はそれぞれステアー大尉とグリズリーさんとを急いで機体の手に載せると二人の機体へと運ぶ。

 グリズリーさんがコックピットに消えたかと思えば、すぐさま最大出力で急上昇し始めた。


 『裂け目より高熱源体出現!』


 グリズリーの声に思わず全員が裂け目から光とともに現れるそれに注目した。


 『目標が事前報告と違う!?』


 ステアー大尉は、その場に居合わせる戦隊パイロット全員の言葉を代弁した。


 『シプカ!司令部とコンタクトをとれ!そして伝えろ!目標はカテゴリーⅢに在らず!カテゴリー不明のデカブツだとな!』


 裂け目から現れつつある異空間虚構体フォーリナーは、これまでにリストアップされてきた異空間虚構体フォーリナーとは全く別の代物だった。

 鈍色にびいろをした禍々しい見た目のそれは、既に五十メートルは地表に露出させていたが依然として体の一部は地中にあった。

 大昔のハリウッドの怪獣映画を彷彿とさせるような巨体だった。

 無論、目もなければ顔もないが。

 

 『ウェルロッド!ここから一番近い友軍の拠点に緊急通達コールしろ!』

 『グアムですわね?』


 緊急発進スクランブルすればグアムからここタチカワエリアまでの所要時間は戦闘機ならば超音速巡航スーパークルーズですら一時間半とかからない。


 『そうだ!急がせろ!』

 

 依然として眼科の異空間虚構体フォーリナーは、地上に出ようと藻掻く様な動きを見せている。

 よく見ればその背中には無数に突き出た突起があった。

 スコープの倍率をあげてその突起を注視する。

 その正体は――――


 『大尉!異空間虚構体フォーリナーの背中に無数の砲身が!』


 どのような機構をしているのかなど全く不明だがその砲身は少しずつこちらへと指向している。


 『全機、緊急回避!』


 ステアー大尉の叫び声に突き動かされエンジンスロットルを思いっきり押し倒す。


 『チィッ……なんつー数だ!』


 グリズリーは舌打ちをした。

 正体不明の異空間虚構体フォーリナーから無数に伸び上がる火箭。

 それが攻撃ではなく対空防御砲火と言ってくれる方がまだ信憑性があるとさえ思った。

 エンジンスロットルと操縦桿とを動かしてどうにか湧き上がる火箭を回避し続ける。

 しかしたった一つの打開の道は開けていた。

 

 『粒子撹乱幕を使えばいいんじゃない?』


 この危機的状況においてシプカは冷静だった。

 無数の火箭は実体弾ではなく粒子砲ビーム砲による攻撃であるとシプカは看破していた。


 『各機!粒子撹乱幕展開、急げ!』


 これまでにも異空間虚構体フォーリナーが攻撃に粒子を用いることはしばしば報告されていた。

 実体弾として各機が二発装備する粒子撹乱弾は、導電性の高い物質を内包し粒子を拡散させる仕組みで、電気を通しやすい大気に囲まれている環境下において、発射時にビームが持つ力場を放電によって弱体化させるという性質を突き詰めたもの、それが粒子撹乱幕の原理だ。

 下向きに発射された粒子撹乱弾は、ボンっと音を立てて煙幕のように内包物をぶち撒ける。

 するとそれまで伸び上がり続けていた粒子ビームは、目に見えて推力を失い虚空に霧散した。


 『今のうちに現空域から離脱する!』


 撹乱幕は風に流されてしまえばそれで効果は終わりを迎える。

 ステアー大尉は、安全を確保した今のうちに脱出を図ることを決定したようだった。

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終末世界の戦闘狂死曲〜失われた聲を探して~ ふぃるめる @aterie3

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