第2話 準備
ギルドを後にしたアレクは目的地までの道のりを歩いていた。
リオネスに行くには、選択肢として二つしかない。森を抜けるか。乗り合い馬車の運行を待つか。
ーーそうなると、時刻表が必要になるな。あと、地図も必要だ。
アレクは辺りを見渡し、販売店を探す。ストリアは多くの冒険者が訪れる都市として有名である。そのため、冒険者向けの販売店が多く存在している。
数分歩いた先の方で、冒険者専門店と書かれた看板を見つけた。冒険者専用の店なら時刻表もあるだろう。そんな単純な考えでそこに向かった。
「いらっしゃい」
店内へ足を踏み入れた瞬間、声をかけられる。入ってすぐ左側。店の主人だろう男が、片手に開いた本を持ちながら微笑んでいる。机の上にはいくつも積み重なった本と黒い液体の入ったカップ。それらが机を埋めつくし隙間さえ見えない。椅子に座り、この空間に似つかわしくない優雅さを兼ね揃えた店主はこちらを見てなお微笑み続けている。
アレクも負けじと微笑み返しながら会釈をし「地図と、乗り合い馬車の時刻表はありますか?」と必要なものを尋ねた。
店主はその言葉に頷き、手に持っていた本を積み重なったている中でも一番低いところに置いた。そして鼻先にとどまっていた丸眼鏡を鼻筋へと持ち上げながら立ち上がると、店の奥へと消えていく。
店主を待っている間、暇なアレクは机の本の題名を頭の中で唱えながら時間を潰した。
ーーグロリア王国の誕生と滅亡。
一つの本が目に止まる。店主が先ほどまで読んでいた本。真っ赤な表紙に金色の蔦の模様が縁取り、先ほど頭の中を埋めた言葉が大きく記されている。
それに手を伸ばそうとしていたところで店主が戻ってきた。
机に積み重なった本の2列分を後ろの棚に置き、空いたスペースに目的のものが置かれる。置いた棚もぎゅうぎゅうに本が詰められており、落ちないか心配になった。
そんな心配を他所に店主は、筒状に丸められた時刻表と地図を広げその上に黒色の柄も何もついていない小さな本を置く。
「これが、紙の地図と時刻表でこの小さな本がそれらを含め、魔物の名前や薬草の名前が書かれているやつね」
「値段は少しするけど、持っていて損は無い」と本を掲げながら店主は言う。
「いくらですか?」
「銀2、銀3、金1だよ」
時刻表、地図、本の順に告げられる。
「見ても?」
本を差しながら尋ね、了承を得られたので手に取り黒い表紙を捲る。片手に収まるその中には折り畳まれた、地図が別に差し込んであった。
ーーこれなら、地図も見やすい。薬草の使用用途も書かれているから役に立ちそうだ。
「これをお願いします」
「金1ね」
アイテムボックスから小袋を取り出し、そこから金貨一枚を渡す。
「君、アイテムボックス持ってるのか」
「ああ、はい。容量は小さいんですけどね」
そう言いながら本を受け取り、それをアイテムボックスへと入れる。本当は、大抵のものは入れられるぐらいの大きさだがわざわざ言うことでもない。こういう時には小さいと言った方が追求されることもないし楽だ。
案の定、それ以上会話が続くことなく、アレクは早々にお礼を告げ店を後にした。
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