第30話 クズと王女

 ハンナ達には紅茶一つ出さないように指示していて、リビングには殺風景なテーブルが空気をより重くしている。


 俺が座っているソファーの迎えに王女が座り、その後ろに元仲間のスタン達5人とメイドが1人立っている。


 王女とメイドが俺を睨んでいる間。


 スタン達には隣の部屋に移動して貰った。


「さあ、これでサシで話せるな? 王女様」


「ええ」


「それで、わざわざここに来たという事は何か悩みがあるのだな?」


「くっ……ぬけぬけと!」


「いやいや、俺は一番の悩みを聞いてやると伝えて貰っただけだ。王女様の悩みが何かは分からないさ」


「…………」


「どうした。大した覚悟もなしにここに来たのではあるまい?」


「…………ええ。私も覚悟を決めて来ましたから」


「それならどんな悩みなのか言ってみてくれ。俺が相談に乗れるモノなら相談に乗ろう」


「っ……」


 苦虫を食い潰したような顔になる美しい王女様である。


「…………勇者様が起たないんです」


「ふむ。何が?」


「くっ!」


 顔を真っ赤にして口を籠らせる。


 後ろに立っているメイドが殺気めいた目で俺を睨む。


「…………ち、ち、ち」


「カーハハハハッ! 王女様は本当に面白れぇな!」


「っ! 全部貴方の仕業なのでしょう!?」


「ああ。全て俺の仕業だぜ」


「!? い、今すぐ治しなさい!」


「嫌だね。お前達が俺にやった事を思い出せるか?」


「っ……それは…………」


「身分が高いからと言って、何でも許されると思うなよ?」


「そういう貴方こそ、私達王家に敵対するというのですか?」


「構わん。このまま勇者ところか、王女や王も不能にするのは俺にとってそう難しい事じゃない」


「っ!?」


「そうなれば、この国の血筋は途切れるだろう。寧ろお前達は俺に逆らうと言うのか?」


 何も反論出来ない王女を眺めると心の底からほくそ笑みが溢れてしまう。


「それで勝ったつもりですか……!」


「ああ。お前がここに来た時点で俺の勝ちだよ」


「まだ私は何も負けてはいません!」


「くっくっ、もはや勝ち負けではないんだよ。お前が俺の視界に一度でも入った瞬間、お前は俺の奴隷・・さ」


「無礼者!」


 後ろのメイドが大きな声をあげる。


「しかし、王女様も面白い人を連れているんだな?」


「面白い人?」


 王女は俺が性欲値を0%にしているから頭の上に黒色の0%が浮かび上がっている。


 だが、メイドは違う。


 彼女の頭の上には赤色・・の200%が浮かび上がっている。


「俺の力を教えてやろう。俺は人の『性欲』を変える事が出来る」


「……性欲?」


「勇者が起たないと言ったが、王女様、お前さんも全く濡れないのだろう?」


「っ!?」


 後ろからますます殺気が俺に刺さる。


 それにしても、このメイド。


 ただのメイドというよりは、護衛か? それなりに強そうな気がする


「メイドさんよ。俺を殺したら王女は永遠に0%のままだぞ?」


「ふん。それはどうかな? 術者が死んだら解ける可能性もある」


「なるほど。それはごもっとも。ただし、俺が死んでもそれが解けないと、もう治す方法が何もないぞ?」


「…………」


「一つ聞きたいのだが、お前さんは勇者の妻となるのを受け入れているようだな?」


「当たり前です! 人類を守る勇者様を陰ながら支えるのが王女の役目ですから」


「立派なもんだな。ただ、支えるのと尽くすのは違うと思うが?」


「そ、それは…………」


「そもそも、お前さんがあいつを止めて・・・いれば、こんな事まではしなかったぞ?」


「…………」


「お前は口では支えると言いながら――――」


「お前に姫様の何が分かるんだ! 姫様は生まれながらその重責にさいなまれておられたんだぞ!?」


 ちょいちょいメイドが口出ししてくるが、余程王女とが良いんだな?


「確かに俺にその重責は分からない。だがな、俺は生まれながらゴミのような生活を続けた。その中で仲間を集め、気性の荒いクレイ達を纏めるため、それなりに頑張ってきたはずだ。だからあいつらはかけがえのない仲間だったし、俺の全てだった」


 嘘ではない。


 クレイは気性が荒い事以外は、面倒見もよくて、仲間想いの良いやつだった。


「あいつが力に目覚めて、俺を蹴り飛ばした時、俺の中の希望は全て絶望に変わったよ。だからもう良い子・・・にはならないと決め込んだ。なあ、王女様。お前さんが重責とやらを感じていたのなら、俺の絶望の重さも知ってるはずだ。どうなんだ?」


「……………………はい。理解出来ます」


「お前さんが絶望に変わらなかなったのは、その後ろのメイドさんのおかげだな?」


「……ミーナがいなければ、私はずっと前に壊れていたでしょう」


「姫様……」


「そんな彼女がお前さんを裏切ると考えてみな? 俺の気持ちが理解出来るだろう?」


「…………ですが、それには貴方の責任も」


「あるかも知れない。だが、あの結果から全て俺の所為だというのは、いささかお前らが傲慢だと言えるんじゃないのか?」


「そう……かも知れませんね」


「で、だ。俺の怒りが治まるはずもない。これからお前らにはそれ相応の罰を受けて貰わないといけない」


「…………」


「もし、無事俺の怒りが治まるまで罰を受け切れたら、いつか不能は治してやろう。俺は約束は絶対に守る男だからよ」


 悔しそうに王女は頷いて答えた。




 くっくっくっ。


 ここから本当の復讐の始まりだ。

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