第15話 訪れる新しい駒
「大家さん! この野菜も持ってって!」
見回り中に店を借りている賃借人から野菜を渡される。
「こんなに!?」
「いいって事よ! これからもお願いね!」
「ま、まぁ俺は家賃だけしっかり払ってくれれば問題ない」
満面の笑顔を見せて店に戻る賃借人。
俺がクズ大家から受け継いだ土地に建っている建物を貸してはいるが、その条件はほぼ変えていない。
ただ、貸している料金が周囲の土地からして少し高額だと思ったから、少し下げてやった。
それでも俺には何の労働もなく、お金が手に入るし、娼婦館も『性域』を設置しているだけで大量の銀貨が手に入るからな。
見回りを終え、土地の一つにある貸家にやってきた。
ここは空き家になっていて、クズ大家は立地から高額で売り出していたが、売れ残っていた。
ここが数年後には値上げするらしいが、これはいいタイミングだと思い、売り出すのを止めて、ここを俺の家にしている。
誰もいない家に野菜を置いて、軽く掃除を済ませる。
今日もこんな日課を送っていると、外が少し騒がしい。
すぐに扉がドンドンと荒々しく叩かれる。
「はいはい! 今出るよ!」
扉を開けると、外にはどこかで見た事がある女と、よく見た事ある男達3人が兵士の鎧に身を纏っていた。
「ん? 俺に何か用ですか? 兵士さん」
「ゲラルドさん! この人です!」
女が俺を指さす。
「ベリアルであっているな?」
「ええ。俺がベリアルです」
「少し話を聞かせて貰いたい。良いか?」
「構いません。中にどうぞ」
特に後ろめたさもないので、兵士達3人と女を中に入れる。
彼らにお茶を淹れて渡す。
「それでは話とやらを聞きましょうか」
「こちらのユーリ嬢から申告があった。お前さんがギレという者を脅して、多くの土地を手に入れたと聞いている」
なるほど。どこかで見た事あるなと思ったら、この女…………魔法ギルドで俺達を担当した魔導士様じゃねぇか。
あの時、怪しげに見ていて、色々問い詰めて来たのを、クズ大家が説得した女だ。
「なるほど。言いたい事は分かりました。が、何の証拠もないのに、そう言われる筋合いはありませんね。彼が俺に土地を渡したのは、
「それはおかしいです! だって、たった金貨3枚があれだけの多くの土地を渡すようになるなんて、おかしいじゃないですか!」
彼女の訴えに苦笑いが浮かぶ。
「金貨3枚を30日と俺への侮辱罪で金貨1000枚。それがその内訳ですが?」
「3枚が30日で1000枚!? そ、そんなの! 詐欺です!」
ダメだ。この女とは話にならない。
兵士のリーダーと思われるゲラルドさんを見つめる。
「王国に貸金の上限は決め事がある。それは知っているか?」
「貸金の場合、元値をそのままに10日で2倍でしたっけ?」
「ああ。3枚で30日なら最大にしても6倍で21枚になる」
「ですね」
「なのに、お前さんは1000枚と言うのは少々無理があるのだ」
「ふふっ。ですが、その貸金には『書証』はないんです。つまり、口約束。それをギレは飲んだという事です」
「それがおかしいんです! あの男は悪質な土地転がしで有名な人なのに、あんな男から大量の土地を奪い取れるなんて、何かの犯罪の匂いがするんです!」
いやいや、悪質って言ってるし、そもそも犯罪の匂いも何も、向こうからやったモノだがな。
「一つだけ言っておく。あれは俺からじゃなく、あのクズから仕掛けたモノだ。だから仕返しと言ってもいい。だからあいつも納得して、それが仕方ない事だと知っても渡した。じゃなきゃ、どうして最初から『裁判官』に訴え出てないと思うんだ?」
「うっ、そ、それは…………」
「そもそもここに兵士ではなく裁判官を連れてこなかったというのは、最初から自信がなく、当てずっぽうで兵士を連れてくれば、何か吐くかも知れないと思ったんだろう?」
「う、うぅぅ…………」
「ゲラルドさんでしたっけ? どうです? 俺を弾圧出来る何かあります?」
「いや、何もないな。それに今日は話だけ聞きに来たのだしな」
確かにゲラルドさんの言う通り、彼らは決して強行策には出ていない。
あくまで話し合いにだけ来ている。
だが、これはチャンスと思えば、チャンスかも知れない。
ゲラルドは見た目だけで、とんでもない強さなのが分かる。
それでこの女が相当優秀な魔導士なのも裏付けられる。
今回はあまりにも証拠がなくて、こうして炙りに来ただけだろうが、普通なら詐欺まがいの事はすぐに見つけられるほどに、優秀なのだろう。
これほどの人材が俺の
「くっくっくっ」
「何がおかしい?」
「これは失礼。先程言った通り、ギレが俺にここまでしたのには理由がある。ただ、それは詐欺でも何でもない。正常な
「…………ああ」
ゲラルドは腰に掛かっている剣の柄に手をやる。
「なんてモノじゃない。俺は勇者の元仲間だったんだ」
「勇者!?」
意外にも反応を見せるゲラルド。
そんな彼らに勇者とクズ大家からあった事を話す。
「う、嘘よ! 勇者様がそんな訳ないわ!」
「いや、あいつは元々底辺の男だ。たまたま勇者のスキルを授かったから、ああなっただけで元はクズだ」
「…………勇者様の侮辱する事は許されないぞ?」
「知っているさ。でも事実を事実と言っている。裁判官に掛けても構わない」
裁判官というのは、特殊なスキルで本人の言い分が本物か嘘か判明させる事が出来る。
実際事実を語っているから、嘘判定になるはずもない。
そもそもあの魔法は、誰にも一目で分かるようになるため、裁判官側で嘘を付く事も出来ない。
「ここまで話したのには理由があるのは、ここに来たお前達なら理解出来るだろう?」
俺の言葉に、女と3人の兵士の顔が曇る。
「ここからタダで出られるとは思わない事だな」
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