第5話 初仕事

 娼婦館の仕事が急遽決まったので、入口が見える高台を支配人に要求した。


 そこで案内されたのが、彼女達が住んでいるアパートで、入口は娼婦館からしか入れない仕組みになっている。


 これは外部から良からぬ輩を入れさせない方法だという。


 娼婦達が暮らしているだけあり、アパート内の清掃が行き届いていて、少しだけ良い香りがする。


 俺が案内されたのは、4階の空き部屋だ。窓から見下ろすとちょうど娼婦館の入口が見え、先程にただ・・で致した用心棒のギアンさんが見える。


 見た目から相当なブツ・・の持ち主だが、実は彼の性欲はわりと低い。45%だ。


 平均的な男性の数値は60%~100%なので随分と弱い。が、その体形から分かるようにかなりハッスルするタイプだ。神は1人に2ブツを与えないというのは本当らしい。


 そんな彼だが、腕っぷしも相当凄いらしくて、この街でもギアンさんに勝てる者はまずいないそうだ。


 王国の騎士長からスカウトされるほどらしいから、大したものだ。


 さて、そろそろ客が訪れてくる。


 入っていく客を性欲250%にするが、これには理由があり、それはまた後程。


 次々入っていく客の性欲をどんどん上書きする。


 250%なんて馬鹿げた数値の人間は見た事もないので、彼らはまるで感じた事がない境地に至っているはず。


 夜もどんどん深まり、営業時間が終了する。


 次の仕事のために、部屋を後にして、支配人部屋に向かうと、ギアンさんが出迎えてくれた。


 支配人さんに軽く会釈して、ソファーに座って待っていると、次々娼婦達が入ってくる。


「ミーシャ、どうだった?」


 支配人の問に、すっかり元通り・・・になった彼女が恥ずかしそうに答える。


「は、はい……す、凄く良かったです…………」


「そうか。ご苦労様」


「ありがとうございます」


 ペコリと挨拶をする彼女が俺には意外に感じる。


「ベリアル。意外と思うか?」


「へ? あっ、はい。まさかあんな感じの子がいるとは思いもしませんでした」


「ふん。お前…………人を見る目がないな」


「…………そうかも知れませんね」


 ああ。


 俺には人を見極める目なんてない。だからクレイ達にあんなにされたんだ。


 娼婦達の性欲を元通りに戻していると最後の娼婦が入ってくる。


「っ…………」


 少し恥じらう彼女は、営業前にギアンさんと致した彼女だ。


「セリス。どうだった?」


「支配人……! ……………………とても良かったです」


「そうか。ありなしならどっちだ」


「絶対にあった方がいいです」


 うんうん。そうじゃろうそうじゃろう。


 俺がニヤニヤしながら見つめると、少しムッとなった美人は「ふん!」と言い残し、部屋から出て行った。


「ベリアル。正式に雇入れる。お前の給料に関しては時価で決めさせて貰う」


「分かりました。俺の提案を吞んでくださってありがとうございます」


「そのスキルに感謝するんだな」


「ええ。まさかこのスキルがこういう役に立つとは思いもしませんでしたから。これから共に生きますよ」


「…………それとボーナスの件だが、一回大銀貨1枚を払う。ただし、お前自身の場合はなしだ」


「分かりました。それでいいです」


 すると支配人から金貨3枚を貰ったギアンさんが俺に渡す。


「こんなに貰えるんですか?」


「契約金も込みだ。お前の事情は調べさせて貰ったからな」


「さすが夜の女王様です。これで助かります」


「ああ。せいぜい張り切って働いてくれ」


「分かりました」


 俺は初日の仕事を終えて娼婦館を後にした。




 ◇




 何だか久々に感じる我が家だが、入る事なく大家の所に向かう。


「おやおや? これは天下のベリアルさんじゃねぇか」


「おうよ。はい。金だ」


 俺は乱暴に金貨を大家に叩きつける。


「っ!? ど、どうしてお前がこんな大金を!?」


「ふん。なめんなよ。それとあの貸家の契約はこれで終わりだ。もう二度と会う事もないと思うが、これは餞別の代わりだ」


「は?」


 大家の性欲を5%にする。これにはある意味0%を超える凄まじい効果があるのだ。


「じゃあな。せいぜい一生それに付き合って生きろよ~」


「ちっ…………」


 俺は舌打ちを聞きながら、ほくそ笑む。




 大家の家を出るとまさか目の前に見慣れた二人の影が俺を待ち構えている。


「ん? 俺になんか用か?」


「そ、そうわよ!」


 ちょっと怒りっぽく言うのは、3度目のセリスさんだ。相変わらず美しい顔立ちやスレンダーな身体をしている。


 俺の中の『ザ・娼婦』といえば、セリスさんを指すほどである。


「お、お願いがあって来たの」


「いいですけど、ここでだと色々大変な目に遭いますけど?」


「ま、待って! あんた、時間差・・・で出来るって言ってたじゃない!?」


「それは終わりの時間差で始まりの時間差は…………始まりの時間差か。考えた事なかったな」


 今日の俺の仕事の内容。


 それは何も単純に客の性欲を250%上げるだけではない。


 仮に性欲をただ上げたのでは、客は恐らく帰らず、ずっと入り浸るだろう。


 ではどうやって帰らせたのかと言うと、スキルにはレベルという概念がある。


 性欲レベル1の時は、視界に映る人々の性欲値を確認出来て、変更出来るようになった。


 そこから何度かこのスキルを使っていると、レベルが2に上がり、『性欲値条件変更』という力を手に入れた。


 これは最大2回まで条件を決めておいて、性欲値を変えられる優れたスキルである。


 この力を用いて、俺が行ったのは、まず客の性欲を直接250%に変える。


 そこに『性欲値条件変更』で、一度『賢者タイム』に突入した場合、性欲を30%に戻す。


 後はその人の家に戻ったら元の性欲に戻す『リセット』が発動するように設定していた。


 これで、今日の仕事で殆どの客は本番をせずに終わっているはずだ。


 その証拠に娼婦達がとても元気なのだから。


「分かりました。二人には条件付きに設定します。今回だけサービスですからね? 条件はホテルにしておきました。120分で終わりですから」


「あ、ありがとう!」


「感謝する」


 二人は俺から逃げるようにホテルに入って行った。


 『賢者タイム』に固執し過ぎて、条件で発動できることを勘違いしていた。


 これならば、ある意味俺が好きなタイミングで釣る・・ことも出来るのか?


 ちょっと試してみようと思う。



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